へいじつのよみきかせ〜親と子の時間〜「あなたのすてきなところはね」

 
Kidsコンシェルジュが提案する絵本を軸とした親と子の過ごし方。
今回は、絵本『あなたのすてきなところはね』をテーマにお送りします。
 
毎年3月がくるといつも感じること。
この1年よく頑張ったなということ。周囲への感謝の気持ち。そして、知らない扉を開くような不安と期待が入り混じった思い。
でも、え?もうお正月から3か月経つの?これが一番でしょうか。3月は別れの季節でもありますね。涙の場面は悲しいけれど、「ありがとう」の涙はたくさん流しましょう。
 
今回は私の好きな絵本をご紹介します。
「あなたのすてきなところはね」という絵本を知っていますか?
質問です。
あなたはわが子のすてきなところ、いくつ思い浮かびますか?
 
保育士だった時のこと。私は1歳児クラスの担任の1人でした。一番小さな月齢 (3月生まれ)のSくんのお母さんのお話です。その子はとてつもなくやんちゃな男の子でした 笑。とにかく元気で、いつも走って追いかけるような毎日。クラスの中では一番生まれが遅いので、周りの子どもたちよりもできないことが多く、コップの牛乳がこぼれるのを楽しんでわざとこぼしながら飲んでみたり、お昼寝はお布団から逃げ出そうとするので他のお友達の妨げにならないように1番に寝かせるなど、少し手がかかる子ではありました。
お迎えの時お母さんはいつも笑顔で子どもの話にうなずき、子どものことがかわいくて一生懸命子育てをされているという印象でした。園での様子は伝えていたので、帰り際には「いつもすみません」と申し訳なさそうに帰宅されていたのを覚えています。
4月に入園してきて、9月頃だったでしょうか。懇談の時期がやってきて、このお母さんと1対1でお話をする機会があったんです。「お仕事が忙しいのに、いつも笑顔で Sくんと接しておられて、すごいなと思います」というところから話をはじめて、「子育てについて何か悩み事とか心配事とかありませんか?」と尋ねました。するとお母さんは「Sがいつもハチャメチャで、お友達のことをたたいたり意地悪をしているんじゃないかと思うんですけど、それをSに何て言ったらやめてくれるのかがかわからないんです」と泣いていらっしゃいました。お母さんはもちろん、子どもがかわいくていつも笑顔で受け止めていたのだと思いますが、まさかそんなに思い詰めていたなんて私には思いもよらないことでした。
「Sくんは、確かにお友達をたたいたりすることはありますが、Sくんだけではありませんよ。まだ言葉が上手じゃないので相手に伝わらない思いが、噛む、たたくという行動になりやすいのが1歳から2歳の子どもたちです。言葉がうまく出てくるようになると、なくなってくるから大丈夫ですよ」そう伝えしました。
改善策としては色々ありましたが、Sくんのいいところをお母さんに伝えていこうということ。お母さんは自分の子どもは「わるい」「できない」と思いすぎてしまっていて、どうすれば良くなるかということばかりにとらわれている感じでしたので、お迎えごとに声をかけ、「今日は、牛乳をこぼさないで飲んだんですよ」「なぐり描きをすごく集中してやっていて、すてきな作品になりました」「お給食を全部食べておかわりもしたんです」というふうにSくんのいいところをたくさん見つけて伝えていきました。
もう1つは、やめてほしいこと、してはいけないことを子どもに伝えるときは、笑顔は必要ないということ。少し真剣に子どもに向かって伝えること。親が柔軟に表情の切り替えをするとで、子どもは、はっとするんです。このこともお母さんに伝えました。
お母さんは、それ以降少しずつ Sくんのいいところを見つけようとするようになったと思います。それを自分から保育士に伝えてくれるようにもなりました。共感してくれる人がいるって、嬉しいですよね。「お友達をたたくのはダメなことだけど、それ以上にこの子にはこんなにすてきなところがたくさんあるんだ」と、気づいたんです。
 
初めの質問の話にもどりましょう。
子育ての真っ最中に、子どもの素敵なところを見つけられる親は本当にすごいと思います。
イヤイヤ期、反抗期…そんな時にわが子のすてきなところなんて探す余裕があるのでしょうか?ないんです。振り返ってみて、私はなかったと思います。
しかしそんな中でも、わが子の何かに一生懸命夢中になっている姿、時おりみせてくれる笑顔、自分の思いを言えるところ、おいしそうにご飯を食べてくれるところを目に焼きつけているはず。それは全部「あなたのすてきなところ」です。それに気づけるのは、きっと嵐のような子育てが落ち着いてきたころなんですね…。
 
絵本の中の、「なにより、あなたのすてきなところはあなたが今日ここにいるということ」。
たったそれだけなんですね。
親はわが子にたくさんの可能性を見出しますし、他の子よりもできることがたくさんあると安心します。子どもが困っていたら手をさしのべて救済するし、さらに上を目指したいと言えばできる限りの惜しみない環境を整えてやるでしょう。でも、べつに何もなくたって、あなたがここにいてくれるだけで本当にすごいんだよ、みんなを幸せにしてくれてるんだよって、伝えたくないですか?
いつだって、間に合うんです。
 
わが子へ無償の愛ってこういうことなのかなって、この絵本を見るたびに思うのです。
そして、子どもだけでなく夫、妻、家族、友人、同僚、上司。
自分の周りにいてくれる人の「すてきなところ」を見つけてみよう。そう思える絵本に出会いました。
 

【今月のおすすめ絵本】
『あなたのすてきなところはね』玉木永吉 えがしらみちこ 絵/KADOKAWA
 
 
[読み方アドバイス]
主人公は男の子ですが、男の子女の子どっちに読んであげてもいいと私は思っています。どうしてかというと、絵本が好きな子どもは、登場人物が「動物」だったり「お花」だったり、必ずしも自分と同じ「人」じゃないものでも、その心情を読みとる力があるからです。子どもが小学生になっても中学生になっても、この絵本をひらいてほしいと思います。

3歳~
 
 
 
【プロフィール】
宮本陽子(みやもとようこ)
Kidsコンシェルジュ
保育科卒業。保育士として広島市の保育園に勤務。
21年勤続の後、保育士時代に毎日読み聞かせをして培った絵本の知識を、リアルタイムに子どもたちそして親たちへ伝えられたらと思い、2017年広島 蔦屋書店に入社。入社してからも「へいじつのよみきかせ」で平日は毎日1日1回、ほぼ毎日絵本を読んでいる。
「0歳から就学前の子どもたちの好きな絵本」、「親が子どもにぜひ読んであげてほしい絵本」、「おとなの気持ちを癒す絵本等」等、多様な児童書というジャンルのなかでも特に「絵本」が持つ魅力を提案し続けている。
 

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