【六本木ホラーショーケース -ARTICLE-】#008 アップデートする『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』

“活きのよいホラー映画、ご紹介いたします”

【六本木ホラーショーケース】
六本木 蔦屋書店映像フロアがお贈りするホラー映画紹介プログラム。
ホラー映画を広義でとらえ、劇場公開作品を中心にご紹介し、そこから広がる映画人のコネクションや文脈を紐解いていきます。
 
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今回ご紹介するのは、現在劇場公開中の『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』です。

(C)2023「戦慄怪奇ワールド コワすぎ!」製作委員会
 
『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』
2023 | 監督:白石晃士
 
日本におけるフェイクドキュメンタリー映画の第一人者として名高い白石晃士監督の代名詞とも言える「コワすぎ!」シリーズ8年ぶりの新作です。
オリジナルビデオ作品として2012年にスタートしたシリーズは、観客の熱狂と共に作品規模や世界観を拡大していきました。
当時、TSUTAYAでレンタルしてシリーズを追いかけていた一観客として、ジワジワと熱が広がっていく様子に興奮したことが思い出されます。
 
劇場版や「超コワすぎ!」での仕切り直しを経て、9作品が制作されました。
8年ぶりの新作ですが、白石晃士監督と言えば、昨年「オカルトの森へようこそ」が制作されました。
WOWOWでのドラマシリーズで、「THE MOVIE」として劇場公開も果たした作品で、白石晃士監督の集大成のような内容でした。
そして、「コワすぎ!」新作という流れは、新たなフェーズへの転換点のような気がします。
 
思い返せば「コワすぎ!」というシリーズは、“早い”作品でした。
一般の投稿者から送られてきた映像をクルーが検証していくというスタイルが確立されていましたが、怪異に突撃する動画配信者から映画が始まるというのは近年の日本のホラー映画では定番となっています。
中田秀夫監督の『貞子』、清水崇監督の「村」シリーズなど名だたるホラー監督たちも取り入れており、韓国の『コンジアム』やフランスの『ザ・ディープ・ハウス』でもYouTuberが登場します。
古くは『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』のように、映画製作者やそのクルーが怪異を収めてしまったテープやデータを後日発見したテイの“ファウンド・フッテージ”というジャンルがありますが、より動画撮影が身近となった現代にマッチした形は「コワすぎ!」が他に先駆けて、より強固に作り上げたと感じます。
最新作でも投稿者たちは迷惑系動画配信者として怪異に突撃して災いを呼び起こします。
ただそれらが単なる噛ましに終わらないところが「コワすぎ!」の「コワすぎ!」たる所以です。
 
「コワすぎ!」シリーズの魅力は、なんといってもメインキャラクターたちの人間性と関係性です。
今作では、これまでディレクターを務めていた工藤がプロデューサーに、ADだった市川がディレクターに昇格しています。
とは言ってもカメラマンの田代と共に関係性は変わりなく、毎度のやり取りを繰り広げていきます。
ただ、「超コワすぎ!」を経て、微妙な認識の違いや妙に腕っぷしの強い市川など差異も楽しめます。
前作からの間に時代や社会も変わり、それは彼らにも影響を与えています。
そして、意外にもそれが今作と非常に深い関りを持っていきます。
これ以上は、実際本編を見て確認していただきたい部分です。

【六本木 蔦屋書店のオススメ:鑑賞前後に観たい作品】
 
『The Backrooms (Found Footage)』
2022 | 監督:ケイン・パーソンズ
 
“The Backrooms”とは、ネットミームが起源の動画群です。
元は一枚の写真で、そこに写るのは何もない黄色い部屋と廊下だけでした。
この写真に不気味さを見出したネットの住人たちが様々なストーリーや設定を付け加えていったのが“The Backrooms”の発祥です。
そして、当時16歳のケイン・パーソンズがこれらのミームにインスパイアされてYouTubeにアップロードしたのが『The Backrooms (Found Footage)』という9分ほどの短編動画です。
今回なぜこの動画をオススメとしたかと言いますと、彼がその後も挙げ続けた動画群が、今回『戦慄怪奇ワールド コワすぎ!』に少なからず影響を与えたのではと仮説を立てたからです。
無限に続く何もない空間の恐ろしさは、今作の肝ともなってきます。
白石晃士監督がそもそもこの動画の存在を知っているかは分かりませんが、あの描写に恐ろしさと面白さを見出した人は、“The Backrooms”も楽しんでもらえると思います。
ちなみにこの“The Backrooms”は、A24によって長編映画化が決まっています。
これは世界がシンクロしている証でしょう。
 
 
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