【裏方のコラム】本を探して、街をさまよう

梅田 蔦屋書店の裏方スタッフが執筆する「裏方のコラム」。装飾・デザインチームを中心として、本や売場、その周りについてをお届けします。
 
 
本を探して、街をさまよう
 
 

電車から降りて、知らない街へ出る。画面の中の地図を片手に道を歩く。地図と街並みを見比べて、スマホとじぶんをぐるぐる回す。本当にこの道であっているのだろうか。地図を信用していないから、地図を見ても迷子になる。知らない街の知らない道を行く。無機質だったり個性的な建物をいくつか通りすぎて、目的地と現在地が重なった。なんかいい感じのビルのポストをチェックして、きたかった店の名前がここにあることを確認する。

好きな本屋がこの街にあるだけでうれしい。むかし、集めていたマンガを買うために通った近所の本屋はもうなくなってしまったから。ふらりと訪れたあの街の本屋も、木製の棚にぎっしりと本が積まれていた。一日じゃ全部見きれないほどの本があったのに、二度訪れることはなく、その店もなくなってしまった。

じぶんの住む街から本屋がなくなって、本屋が遠くへ行ってしまった。でも消えた本屋の数だけ、新しい本屋との出会いがある。だから本屋に行くために街をさまようのが楽しい。知らない駅、知らない街、初めていく本屋。置いている本はほかと一緒かもしれないけれど、この本がこの店にある理由、この店と店主が醸し出す空気はそれぞれ違う。その違いと新しい出会いに会いにいくことが街をさまよう目的だ。

 

――迷子でいいのだ

来た電車に乗る。知らない駅で降りる。前を歩いている人についていく。角があれば曲がる。本屋があるなら入る。そうだ、目的地なんか作るから迷子になってしまうのだ。そういって迷子でもいいと肯定してくれるのが、浅生鴨さんの「どこでもない場所」だ。

迷子でいいのだ

この本の中で鴨さんはいつもどこかで迷子になっている。クリスマスのプラハで北を探して歩き、タイでは携帯を修理したくて店を行ったり来たり。毎回異国の地でやっかいな揉め事に巻き込まれたり、意味不明な物件に泊まっていたりする。ラブホテルに2週間も滞在するなんて私なら絶対にいやだ。でもそうやっていつも受け身で起きた出来事に流されていくと、思ってもみない結果になったりする。人生も道も目的地なんかつくらずに、めちゃくちゃに迷った方が案外おもしろいのかもしれない。目的地さえなければ道に迷う事なんかない。目的地がぜんぶ悪い。

 

 

――本の読める場所を求めて

好きな本屋で気に入った一冊と出会えば、にこにこして店を出る。さあ、この本はどこで読もう?
毎日の通勤電車の中?お気に入りの喫茶店?それとも今すぐ家に帰って好きな飲み物を入れて、日向にあたりながら読んでしまおうか。 本を探して街をさまよった次は、本の読める場所を探してまた街をさまよう。いい雰囲気の喫茶店で読書をしている人がいれば思わず入る。本を開いて読む。コーヒーをひとくち啜ってまた続きを読む。目では字を追っているが、耳は周りの音を拾っている。会話、ぺちゃくちゃ、雑音、響く大きな音。うーーん。あまり集中できない。
読書が好きな方は街の中での本の読めなさを体験していると思う。だから阿久津隆さんが本の読める場所を求めて、街をさまよう描写には共感しかなかった。

 
「本の読める店」を定義した一冊

喫茶店、ブックカフェ、電車、図書館…街にあるいくつもの空間は、本を読むための場所として適しているかといえばそうともいえない。著者は、本を読むためにいくつもの店へ足を運び、そこで本の読めなさを痛感する。そして映画を観るために映画館があるように、スケートをするためにスケートリンク場があるように、読書を楽しむために本の読める店「fuzkue」をつくった。

本の読める店「fuzkue」の案内書きとメニュー

店をつくって終わりではなく、いかに本を読む人のために本の読める空間を保つか、そしてお店として経営していくための仕組みづくりなど、本を読む人と店とのちょうどいいバランスがよく考えられている。そんな著者の店づくりの過程を目にすることができた。

本屋さんのとなりに本の読める店がある。そんな光景がいろんなところで見られたら最高だろうな。

 

――みんな、ブックオフで大きくなった

ぶらぶらするのは、なにも街の中だけじゃない。見慣れた街の風景に新しい発見を見つけるのは難しいけれど、この店では新しく入ってきた本を簡単に見つけることができる。そう、ここがブックオフだからだ。 ブックオフといえば、どんな街にもひとつはある、大きな本と書かれた看板とあのまるい顔。
そんなブックオフに育てられた9人の著者たちそれぞれのブックオフへの思い出と愛が詰まっている一冊。

 
ブックオフとはなんなのか。その魅力と、いくつかの思い出。

特におもしろいのが、ブックオフとせどらーたちの攻防戦。ブックオフがこの世に生を受けてから、現在に至るまでの熱いドラマがせどらー視点で綴られている。買取価格の変遷や値下げシステム、そして店内をうろつくせどらーの繰り出すビームに負けずと立ち向かうブックオフ…

ブックオフ感のある裏表紙


子どものころはブックオフなんて、古本屋であり、マンガの読める場所という認識でしかなかった。しかし、この本の著者たちはそれぞれのブックオフとの付き合い方をしている。 大人たちがブックオフツアーでブックオフの暴力にはしゃいでいる姿やブックオフの棚を見て回りつつもどんどん話が逸れていったりする様は何回読んでもおもしろい。 ブックオフに育てられた人にはたまらない一冊。

 

行ってみたかった本屋を訪れたら、まずは入り口近くの棚からじっくり見ていく。棚に並んでいる背表紙をすーっと見る。この本読んだな、とかこれも気になってた本、とかひとり心の中ではしゃぎつつ、気になった本を手に取る。最初のページを読んでみてあっこれは買って読もうと即決まることもあるし、また今度にしようと、本棚の積ん読本を思い浮かべて棚に戻すこともある。店によって少しずつ異なる本のラインナップに店主の気持ちが読み取れてだんだん楽しくなってくる。 今日も新しい本との出会いを探して、街をさまよう。

 

今回ご紹介した書籍
『どこでもない場所』
浅生鴨/著
左右者
 
『本の読める場所を求めて』
阿久津隆/著
朝日出版社
『ブックオフ大学ぶらぶら学部』

夏葉社

PROFILE|裏方のA
梅田 蔦屋書店のWEBを更新しています。ブックオフ大学ぶらぶら学部マンガ長時間立ち読み学科
 
ご感想はこちらまで:umeda_event@ccc.co.jp

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