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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.204『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒/集英社インターナショナル

蔦屋書店・丑番のオススメ『目の見えない白鳥さんとアートを見にいく』川内有緒/集英社インターナショナル
 
 
ノンフィクション作家・川内有緒さんが、全盲の美術鑑賞者、白鳥健二さんと絵画を、仏像を、現代アートを見ていきます。その中での気づきや発見が綴られていくのが本書です。
 
目の見えない人とアートを見るとはいったいどういうことでしょうか。
白鳥さんは目が見えません。目が見えるひとが、どのようなアートか説明をしないといけません。絵画であれば、絵の大きさはどれくらいなのか?何が描かれているのか。どのような色が使われているのか。どういう感じがするのかを伝えていきます。
想像してみてください。例えばムンクの『叫び』をどんなふうに説明しますか?
 
あまりにも有名な絵画ですが、目が見えない人に説明をしてみようと思って見てみると、いままで見えていなかったものが見えてきます。画面中央手前側にいる叫んでいる人物や曲線を主体とした画面構成が『叫び』なのだと思っていましたが、奥側から画面手前に歩いてきている2人の人物や画面後景のボート?に乗った一見のどかそうな光景にも注意が働きます。TVや雑誌、画集などでなんども見たはずなのに。あれ?ちゃんと絵を見られていたのかな?
 
本書では、美術館の学芸員が白鳥さんの美術鑑賞をアテンドした際の、以下のような驚くべきエピソードが語られます。
 
「一枚の作品を前にして、「湖があります」と説明を始めた。そのあとに、「あれっ!」と声をあげ、「すみません、黄色い点々があるので、これは湖ではなくきっと原っぱですね」と訂正した。男性は「自分は何度もその作品を見ていたはずなのに、ずっと湖だと思いこんでいた」と驚いている。」
 
学芸員という美術鑑賞のプロでさえ、思い込みによる見間違えをしていました。それが白鳥さんに説明するというフィルターが挟まることによって、思い込みから取り払われ、純粋に「見る」ことができるのです。わたしたちはさまざまな認知的な枠組みを通してしか、物を見ることができません。それは日常生活を滞りなく過ごすためには必要なことです。毎朝、水道から流れ出す水をみて、あー、美しいなどと言っていると、社会的生活は営めないでしょう。ただアートを鑑賞するということはその枠組みから自由になるということなのですが、その枠組みを外すことは容易ではありません。本書はその枠組みから自由になるアートの鑑賞法を提示している、というのが面白いところです。
 
しかし、その面白さは、この本の、ほんのさわりにしか過ぎません。この本を読みすすめると、思いもよらない地平まで連れて行ってくれます。アートと障害というのは切り口にすぎず、人と人との関係性について書かれた本だと思いました。お互いのわからなさを埋めていくこと。わからない、ということをわかること。共感でなく理解すること。これもわたしの感じたことのひとつで、この本を読んで別の感想を抱く方も多いと思います。それこそが面白いのだと思います。
 
 

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