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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.254『君のクイズ』小川哲/朝日新聞出版

蔦屋書店・江藤のオススメ『君のクイズ』小川哲/朝日新聞出版
 
 
私はミステリ小説が好きだ。
物語の中で提示される様々な証拠、断片的な手がかり、描かれる状況、それらを過不足なく読み取り、論理的な推理で見事に謎を解き明かす。
それらのヒントがすべて提示されても我々読者は真相にたどり着けない事がほとんどなのに、探偵はそれよりもかなり早い段階でわずかなヒントを元に正解を導き出す。
 
そしてそのミステリ小説が面白いかどうかを決める大きな要素のひとつが「解くべき謎がどれだけ魅力的なものであるか」なのである。
 
私がこの小説『君のクイズ』を読んで思ったのは、クイズとミステリの類似性についてだった。
私たち素人がクイズに挑戦するとき、その優劣を決めるほとんどの要素は「答えを知っているか知らないか」である。熟練したクイズプレイヤーではない私たちにおいては問題文をすべて聞いてから、それを知っているか、もしくは思い出すことができるか、によって勝敗は決まる。
だが、真にクイズを知り尽くしたプレイヤー達はそこではないところで戦っている。
 
百人一首には、決まり字というものがある。上の句のなん文字目までが読まれた時点で取るべき下の句の札が決まるというものだ。1文字目で決まるものもあれば、6文字目まで聞かなければ決まらないものもある。
実はクイズにも、問題文のどこまで聞けば答えが確定すると言われるポイントがある。いわゆるクイズにおける「確定ポイント」である。ただし「確定すると言われている」という注が付くのであるが。
 
というのも、百人一首であれば、上の句と下の句の組み合わせは決まっていて、その数も100種類しか無い。しかし、クイズの問題というのは無限である。この世の中に存在するあらゆるものはクイズの問題になりうる。しかもその答えは、ある場合や条件や時代や出来事によって変わることすらある。
であれば、確定ポイントなど無い。というのが正解かもしれないが、美しい問題、そして美しい解答、を作るのが作問者の思いであるから、ゆえにある程度は確定するのである。問題文の前半と後半とその解答にきちんとした必然性が無い問題は美しくないからである。
 
ここで、前述した、クイズとミステリの類似性の話に戻る。
 
探偵は、提示される証拠や状況などのヒントを集めて無数の可能性の中からある一つの真実が導き出せるギリギリのラインで謎を解く。それが早ければ早いほど、そして、思考の流れが論理的で無駄がなく美しいほど、私たちは魔法のような探偵の推理に驚嘆し感動するのだ。
 
同じように熟練したクイズプレイヤー達は、読まれる問題の1文字1文字に集中してこの世に無限に存在するクイズの答えの中からただ一つの正解を手繰り寄せるのだ。
例えば、この単語が出てきて、次にこの単語が来たらこの答えが確定する。というふうに。
さらに、この小説の中では「問題ー」「今週気づいたことー」ここで早押しボタンが押され、正解が導き出されるシーンがある。あり得ないことのように思うが、正解を手繰り寄せることは可能なのである。もっと驚くべきは「問題ー」「幸福なかー」でボタンが押されて正解するシーンもある。まさにクイズプレイヤーが魔法使いのように感じられる瞬間だ。
 
もちろん、ただ押すのが早ければいいというものでもない。いかに確定ポイントを見極めて、その直前で押せるか、それが美しい押しというものなので、他の答えの可能性を抱えたままただ早く押すというのはただのギャンブルとして、称賛されない。
 
ここまでの話を前提に、この小説の冒頭部分を説明したい。
 
主人公はとある生放送の本格的クイズ番組の決勝を戦っている
ポイントは6-6であと1ポイントを取ったほうが優勝となる
そこで出される最終問題
 
「問題ー」
アナウンサーが息を呑み口を閉じる
 
その瞬間
 
解答ボタンが押される
押したのは主人公の対戦相手
 
彼はまだ一文字も読まれていない問題に答える
 
正解を示す「ピンポン」という音が鳴る
 
彼は0文字で解答を導き出す。
 
いったい、何が起こっているのだろう
唖然とする主人公
 
これは、どういうことなんだ?
 
主人公はこのクイズ(はたして人は問題として読まれる文字が0文字の段階でクイズに正解することができるのかという、非常に魅力的な謎)を解くことができるのだろうか。
 
 
 
 

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