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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.353『普通の底』月村了衛/講談社

蔦屋書店・江藤のオススメ『普通の底』 月村了衛/講談社
 
 
そもそも普通を目指すことってなんなのでしょう。
ただありのままにいることが普通なのでしょうか。
特に不幸でも、特に幸せでもなく、目立たず、平凡で、ささやかに生きたい。
それが普通を目指す人のゴールイメージかもしれません。
でも、そんな普通も今や手が届かないものになってきているのかもしれません。
 
主人公は、まさに普通を目指し生きてきました。
いや、一般的な普通よりも、やや上、中の上ぐらいでしょうか。
そこが一番無難な生き方であろうということで、学校でも真面目にするけど、目立たないように、平凡をよそおいつつも、普通への執着は持ち続ける。
そんな生活を心がけてきました。
 
そして彼は、そこそこの学校に進学して、まあまあいい就職先に務め、恋人もできます。彼の目指す普通をそこで得られるはずだったのです。
 
つまずきのきっかけは、高校生時代の彼の悪い知り合いに、トー横に誘われ、トー横の守護神と言われるシュウジと呼ばれる男に出会ったことでした。彼らはトー横に集まる子供たちに炊き出しをしたり慈善活動をしているように見せて、実はそこに集まる若者たちを性的に搾取する悪党だったのです。
彼は普通で有りたいがために、事を荒立てたくないがために、ついて行ってしまい、それに加担してしまうのです。
 
はっきりとわかる彼のつまずきの最初はこの出来事だったのですが、果たして彼はこれがなかったら普通を達成できたのかと言うと、私は怪しく思います。
普通を目指すが故に彼には主体性がなく、流されやすく、感情が希薄で波がない。
そこそこの暮らしはしたいけれど、大変になるだろうから出世欲はそこまでない、我慢して頑張るというよりも、自分が合うところへと動いていく。無理はしない。
あれ、これって、現代に生きる私たちの大多数はそんなもんじゃないですか?
これが普通なのか。
 
主人公は普通を目指していただけなのに、これ以上はないどん底に落ちてしまいます。
まさに最底辺というよりも、それ以上下がないどん底です。
なぜ、彼はそこへ落ちてしまったのか。
 
月村了衛が書き続けた現代社会の闇の部分、その中でも最も身近な闇に飲み込まれる主人公。トー横、受験、進学、奨学金、就職、転職、SNS、闇バイト、現代の闇を書き続けた月村了衛がたどり着いた普通の底とは、どんな場所であり、誰が底へ落ちるのか。
けっして、あなたも人ごとではありません。
 
 
 

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