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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.351『宇宙の果てには売店がある 生活感のあるSF掌編集』せきしろ/シカク出版

蔦屋書店・犬丸のオススメ『宇宙の果てには売店がある 生活感のあるSF掌編集』せきしろ/シカク出版
 
 
物語を読むとき、頭の中はとにかく忙しい。世界設定を理解しつつ、登場人物を妄想し(最高に自分好みに)、共に感覚や感情を味わっていく。時には世界設定がひっくり返り、登場人物が驚くような行動をとる。そのたびに頭の中の世界がグチャッと音が鳴ったかのように崩壊し、新たな想像力が刺激される。
 
今回、お勧めしたい本は、まさに「これでもか」というくらい想像力を刺激されるSFなのだ。
 
と、いわれると長編でファンタジックなSF小説を想像される方も多いかもしれない。だが、短編と呼ぶには短い数十文字のものがほとんどで、一番長くて十ページ弱しかない。しかも、「今」の暮らしと地続きの世界設定から、単語ひとつでどんでん返しに合ったようなSF感。その塩梅に驚かされSFファン心をくすぐられる。頭の中は想像の大洪水。
 
例えばこんな一話。
校庭に転送されてきた犬が現れて授業中だというのに大騒ぎになる、という未来あるある。
(本書 059ページより)
校庭に犬が迷い込む。これだけで平凡な学校生活の中では一大イベントだ。いつの時代でも盛り上がる。それが「転送されてきた犬」とくるのだ。その犬がなぜ転送されてきた犬とわかるのか?有名なSF映画で観た稲妻のような強い放電現象が起こる、または強い風圧によって地面がえぐれる、と、同時に犬が現れるとか?もしくは、犬自体に転送されたと一目でわかる特徴がある?例えばサイボーグ的な体で、すごいスピードで駆け抜けたり軽くジャンプしただけで何メートルも跳ねたり?アニメのようなスカウターを装着しているとか?いや、ちょっと待って?そもそもこの犬は未来から転送されたのか?「未来あるある」ということは、未来の人によってはよくあることで、これを聞くと共感しつつちょっと笑っちゃうような出来事ってことで…。この時代になれば転送装置は一家に一台、どこにでもあって、ペットの犬が遊んでいる間にボタン(未来ではボタンやレバーなんて存在していないかもだが)を押してしまって、校庭になんだかとぼけた顔で現れてしまうのかもしれない。きっと寝坊したときに校則で禁止されているにも関わらず(教師は健全な体のためにとか理由を付け転送装置で通学するのを禁止するだろう)、転送装置で通学してしまった子の家の犬なのではないか。大慌てで犬を捕まえに行く子と、無邪気な犬の追いかけっこが始まる。
とかとかとか…。
短い文章だからこそ次から次へと想像がとまらないし、単語ごとにバッタバッタと想像をひっくり返される。一話のセンスもリズムも、読んでいてとても気持ちがいい。
転送という単語だけでもSF好きは楽しめるが、他にも、UFO、異星人、宇宙旅行、仮想空間、地球最後の人類、アンドロイド、タイムトラベル、などなど、SF好きであればあるほどいろいろなシチュエーションを想像し笑えるし、アニメや映画で観たことある程度の人でも十分楽しめる。SFは苦手だと思っている人も馴染みのある日常的な暮らしがベースとなっているので、ここからSFを好きになってもらえそうな一冊なのだ。
 
1000年先の未来人は一体どんな暮らしをしているのだろうか。テクノロジーがさらに進歩し、宇宙開発によって月や火星に住むことも珍しくなくなって、「明日からちょっと火星に行かないとなんだよね」とか言っているのだろうか。それでもやっぱり人間の行動や思考はこの本の物語のようにあまり変わっていなくて、ちっちゃなことでくよくよしたり、くだらないことで笑ったりしているんじゃないかなと思う。過去の人もきっとそうだったのだろう。わたしたちはずっと、過去から受け取り未来に渡しながら生きてきた。これからも暮らしは続く。
 
タイトルである『宇宙の果てには売店がある』。この気になる売店を、あなたもぜひ想像してみてください。どんな売店なのかを、この本を持ち寄っていつかお話しできたらいいですね。
 
 
 

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