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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.347『ちびゴリラのちびちび』ルース・ボーンスタイン 作 岩田みみ 訳/ほるぷ出版

蔦屋書店・佐藤のオススメ『ちびゴリラのちびちび』ルース・ボーンスタイン 作 岩田みみ 訳/ほるぷ出版
 
 
まだなかなか上手におしゃべりできないくらいの、かわいい小さなお子さんに、絵本を読んであげること。
どんな絵本であっても、いっしょに本を開いてお話を読んでもらうことそのものが、子どもにとってはきっと嬉しいことに違いありません。しかしそうしてお話を読んでもらっているとき、その子の心の中ではどんなことが起きているのでしょうか。大人の感覚ではなく、子ども自身が、読んでもらっているものをどのように受け取っているのかということを想像してみることは、絵本を選んだり読んであげたりするうえで時には必要なことではないかと思います。
 
今回ご紹介する『ちびゴリラのちびちび』は、ご家庭で小さなお子さまに読んであげる絵本として、ぜひおすすめしたい作品のひとつです。
お話はとてもシンプルなもの。主人公であるゴリラの子ども“ちびちび”への愛情を表す言葉が、落ちついた色味で描かれたイラストに添えて、ページごとに何度も繰り返されます。
 
 
〈ちいさなかわいい ゴリラがいました。
みんな ちびちびが だいすきでした。
 
おかあさんも おとうさんも 
おばあさんも おじいさんも
ちいさいゴリラが だいすきでした。
 
ちびちびがうまれた そのひから
みんなは このちびゴリラが だいすきでした。…〉
 
 
家族だけではありません。ジャングルに住むオウムも、サルも、チョウチョも、大きなヘビも、ゾウの親子も、みんなこのちびゴリラが大好き。
ライオンのおじさんは、ちびちびを喜ばせようとわざと悲鳴をあげてやり、カバのおばあさんは、ちびちびが行きたがればどこにでも連れていってくれました。
なぜって、みんなちびちびのことが大好きでしたから。
 
そして一年がたちました。小さかったちびちびは、どうなったでしょう?…

この絵本を読んだおうちの方の感想に、「はじめは横に座って聞いていた子どもが、読んでいるうちに私に抱きついてきました」「親子でハグしながら読みました」といった声が寄せられていました。それは一体どんなことを示しているのかということを、今回少し考えてみたいと思います。
 
よく、小さな子どもは、絵本の世界に入り込み、おはなしの主人公と一体化するような聞き方をするのだと言われます。
理由はいくつかあるようですが、その一つとして、大人に比べ、全てのことに対する自分の実際の“経験”というものが非常に少ない小さな子どもにとっては、お話のなかで語られている状況を自分で把握し、さらにそれを登場人物の体験として頭の中でイメージするということは、とても負担のかかる難しいことであるということが挙げられるようです。
 
ところがそうした点で、今回ご紹介する『ちびゴリラのちびちび』は、他の絵本とは少し異なる特徴を持っているように思われます。この絵本においては、お話の世界に入り込む、というよりも、どちらかというと、「おはなしの中で語られていることを、自分自身の実際の経験や状況と照らし合わせながら聞く」ということが、子どもによって為されているように思うのです。
 
経験というものが非常に少ない小さな子どもには、本来そうした聞き方は難しいはずなのに、それがなぜか可能になっているように見受けられるのは、おそらくこの絵本で語られていることが、その子にとって日常的な体験として積み重ねているなじみ深いものであるから。つまり、“周りの人たちから愛情を注いでもらっている”ということを直接的な題材とするこの絵本の特質が、そうした反応に繋がっているのではないかと思われます。
 
「小さなかわいいゴリラ」というモチーフは、きっと子どもが自分自身を投影しやすい存在でもあるでしょう。あるときおうちの人といっしょにこの絵本をひらきながら、ちびちびのおかあさんもおとうさんも、おばあちゃんもおじいちゃんも、みんながちびちびのことが大好きだということを聞くうちに、小さなその子はハッとして、言葉にならないながらも、このようなことを思うのかもしれません。
「ぼくと(わたしと)おんなじだ! ぼくのおかあさんもおとうさんも、おばあちゃんもおじいちゃんも、ぼくのことが大好きだもの!」
 
幸せな子どもは、周りからの愛情で満たされています。しかしそれはその子にとって疑いない当たり前の状態であって、小さな子ども自身が、それを自分の“気付き”として改めて意識するようなことは、通常ほとんどしないのではないでしょうか。
『ちびゴリラのちびちび』という絵本を介して、自分がそのような存在であることをより客観的に認識し、周りの人の愛情を喜びとともに確認する。それはもしかしたらその子にとって、はじめて体験するような感覚かもしれません。
 
もちろん、それぞれの子どもと絵本との出会いは、タイミングや相性も関係しますし、こうしたことは、必ずしも当てはまらないことなのかもしれません。
ですがもし、おうちの方がこのちびちびの絵本を手にとって読んであげたとき、その子の頭のなかで先ほど申し上げたようなことが起こったとしたら、それは身近な大人であればすぐにその場で分かることではないかと思います。
もしかするとこの絵本も、家族の大切な一冊に加わることになるかもしれません。
 
幼い子どもが言葉で上手にコミュニケーションできるようになる前の時期、日々の暮らしの中で、この子が今何を感じているのだろうかと、隣にいてその様子を見つめ、思いを巡らせながら過ごす時間というのは、きっと案外短いものです。
 
気付けば瞬く間に大きくなっていく、その子と共に過ごす大切な時間に寄り添うような一冊が、どうか見つかりますように。そう願いつつ、私たちは、子どもの本の売場で働いています。
 
 
 

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