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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.332『あした死ぬ幸福の王子ーストーリーで学ぶ「ハイデガー哲学」』飲茶/ダイヤモンド社

蔦屋書店・神崎のオススメ『あした死ぬ幸福の王子ーストーリーで学ぶ「ハイデガー哲学」』飲茶/ダイヤモンド社
 
 
「残念ながら王子、あなたは明日死にます」
「その『死ぬかもしれない明日』は、少なくとも『一ヵ月以内』に必ずやってくるでしょう」
 
私たちはいつかは死ぬと知っています。けれど未来を描くときに、ほとんどの人は「死」を考えていないはずです。王子オスカーも突然の余命宣告にうろたえます。王子の脳裏に浮かんだのは未来永劫に続く「無」、自分の人生は無意味だという思いが溢れてきます。家臣に促されるまま狩りに出かけますが、王家の領内に入り込んでいた貧しい女の顔を感情のままに蹴り上げてしまいます。しかし虚しさは募るばかり。オスカーは森の奥に湖を見つけると、死の苦しみから逃れるために一歩、また一歩と前へ進んでいきます。その様子を見ていた釣り竿を持った老人が声をかけます。「俺はもうすぐ死ぬんだ。ほっといてくれ」と荒ぶるオスカーに老人はこう言うのです。
 
「自分の死期を知らされるなんて、おまえはとてつもなく幸福なやつだな」
 
哲学者と名乗る老人は、死に怯え悩むオスカーにハイデガーの哲学について語ります。
根源的な哲学のテーマとした『存在とは何か?」を考えるために『人間とは何か?』を問いかけ、『人間とは何か?』を考えるために『死とは何か?』を問いかけたというハイデガー。オスカーは学びながら少しずつ自分の過去と向き合い、現在と向き合い、未来、死と向き合い始めます。ある日、老人の服を着て街に出たオスカーは彼が顔を蹴り上げた女性を探します。彼女、ヒルダは目が見えず、体も弱り、もはや手の施しようがない状態でした。ヒルダの元に通い、彼女と過ごす時間に安らぎを感じていたオスカーでしたが、ヒルダは「死にたくない、怖い」と彼の腕の中で息を引き取ります。死への向き合い方を学んできたはずのオスカーでしたが、ヒルダに何も伝えられず、自身もヒルダの死を受け入れることができませんでした。国を去るという老人は無力さにうなだれるオスカーに次の言葉を残します。
 
『人生は終わるまで終わらない』
 
しばらくしてオスカーは像となり、街のどこからでも見える巨大な高い柱の上に据え置かれました。
「あれっ」と思われ方もいるでしょう。本のタイトルから気づかれた方もいるかもしれません。そうオスカー・ワイルドの『幸福な王子』の物語です。王子とツバメは本当に幸福だったのか。それは読者の判断に委ねられます。
本書は哲学に分類されています。飲茶氏による平易な解説のハイデガー哲学を学びながら、過去、現在、そして未来を生きる自分という存在と向き合う。そんなきっかけをくれる一冊です。
 
 
 

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