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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.313『荒野へ』ジョン・クラカワー/集英社

蔦屋書店・竺原のオススメ『荒野へ』ジョン・クラカワー/集英社
 
 
大いなる自然は、時に人々の心を掴んで離さない。
そんな自然に魅了された多くの人々の中に、クリストファー(クリス)・マッカンドレスという青年がいる。
本作は、そのクリスが、いわゆる近代的な生活を捨て、長らく夢見ていた自然の中でのノマディックな生活に身を投じつつ、最終的にはその自然の脅威を前にして死を遂げるまでを追ったノンフィクションである。
 
作者のジョン・クワカワーは1954年生まれのジャーナリストで作家、また自ら登山家として山へ赴く一面もある(1996年に発生したエベレスト大量遭難事故の当事者の一人でもあり、その事故について描いた『空へ』という作品も残している)。
徹底的な取材を経て書かれるそれらのノンフィクション作品はすべてベストセラーとなり、世界的に高い評価を受けているが、本作は上述の遭難事故を経験した1996年に上梓されたものである(クリスに関しては、1993年にも『Outside magazine』にて記事を執筆している)。
 
さて、クリス・マッカンドレスとはどんな人物なのか?
生まれはカリフォルニア州のイングルウッドだが、幼少期を過ごしたのは同州のエル・セグンド。
父ウォルトと母ウィルヘルミナの間に生まれた長子であり、妹はカリーヌと言う。
ウォルトはNASAのとある部門でマネージャーを務めた後に、自ら事業を立ち上げ一定の成功を収めており、生活としては比較的裕福だったと言えるだろう。
(ただウォルトにはこれ以前にも家庭があり、最初の結婚相手(マルシア)との間に6人の子どもがいたのだが、ウィルヘルミナとの間に子どもが生まれた後にマルシアとの間にも子どもが誕生する。クリスはこの事を後年、偶然にも知る事となるのだが、その事が彼の精神性に重大な影響を与えた可能性がある、と作者のジョン・クラカワーは推測している。)
幼少期からいわゆる「文武両道」だったクリスは、米国の中でも最難関名門大学の一つであるエモリー大学を1990年に卒業後、銀行口座の全額($24,000)を人道支援団体「オックスファム」に寄付し、自身を「アレクサンダー・スーパートランプ」と名乗ってアメリカ西部の旅に出る。
そして約2年間の放浪の末に辿り着いた、長年の憧れであったアラスカの荒野にひとり足を踏み入れた4ヶ月後、その地にうち捨てられていたバスの中で死体となって発見される、、、。
 
本作は、クリスが残した手記や、道中に彼と関わった人々の証言からその一歩一歩を辿る内容となっている。
また「恵まれた境遇で育ったクリスが、なぜ家を捨てて荒野の世界に魅入られていったのか?」という疑問を、登山家でもある著者ならではの視点で考察されているのも印象的である。
この作品を基に、2007年にショーン・ペン監督による映画『イントゥ・ザ・ワイルド』が公開されており、主に第二者/第三者視点で構成されている書籍と比較して、映像作品の方はクリス視点で描かれており、それぞれ異なる角度で一つの作品を捉える事が出来るので、併せて楽しんでみて頂きたい。
 
 
 

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