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【書評】広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.328『フキダシ論 マンガの声と身体』細馬宏通/青土社

蔦屋書店・犬丸のオススメ『フキダシ論 マンガの声と身体』細馬宏通/青土社
 
 
マンガについて語る。その多くは、ストーリー展開のおもしろさや作画の素晴らしさについてであろう。斬新な設定やキャラクターのカッコよさ背景の描き込みなど、強く記憶に残りしばしば語られる。だが、フキダシに注目してマンガを読み、さらにそれについて語ったことがあるだろうか。「え?フキダシってそんなに重要?」と思われるのではないだろうか。そのフキダシについて注目するとこんなにも奥が深くておもしろいのかと思わせるのが、今回紹介する『フキダシ論 マンガの声と身体』なのだ。
 
フキダシ「論」とあるように、フキダシについて研究し論じている。取り上げるマンガは、田河水泡『のらくろ』、高橋真琴『パリ~東京』などの昭和の作品から、遠藤達哉『SPY×FAMILY』、吾峠呼世晴『鬼滅の刃』までと幅広い。なるほど、どの時代でもフキダシは常に実験的で斬新だ。作画にばかり注目して読んでいたのが、とてつもなく勿体なかったと思う。それを本書は教えてくれたのだ。
 
フキダシ…、侮っていた。
 
マンガはコマ割りされた静止画を追い読み進めるが、自然と頭の中でアニメーションのように再生されているのではないだろうか。フキダシによるセリフもそうだ。キャラクターが発しているように読む。そこには感情もこもっている。作画による感情表現だけはなく、フキダシの形にもそれは表れる。誰が発したセリフなのか、大声なのか小声なのか、独り言をつぶやいているのか心の内で考えているのか、テンポさえもわかっている。マンガ好きにとっては当然のことだが、改めて、なぜそうわかるのかを解説されながらフキダシを観察していくと、それが実にうまくできていて、形やレイアウトなどどれをとっても作者の工夫が見て取れるのだ。
しかも、フキダシには実験的要素が多いことに驚かされる。例えば、音が無い表現にあえて無言のフキダシが描かれる。無言であれば必要なさそうな沈黙の表現があるからこそ、わたしたち読者はキャラクターが沈黙する理由を考え、前後のコマに視線を移すというのだ。確かにそうだ。
時に、フキダシはコマ中だけには収まらない、コマをぶち抜く、またぐ、興味深いものではフキダシがモノ化されキャラクターが寄りかかっていたりもする。パターンからの逸脱・ズレによって、わざと繰り返し読ませる効果まであったとは。
マンガを読むときに無意識的に行っていることが、実はフキダシによって誘われていたのだ。フキダシが読み手を勢いづかせ、立ち止まらせ、振り返らせる。読み手をコントロールしているのは作画ではなく実はフキダシのほうだったのだ。
 
フキダシ、めちゃくちゃおもしろい!
 
フキダシをみることで、マンガがいかに高度なテクニックを要する表現かということが解る。こんなにも凄いものを読んでいるのだから、「マンガばっかり読んで…」と困った顔をするのは、もうやめてもらいたいなぁ…と思うのである。
 
 
 

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