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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.319『がたごと がたごと』内田麟太郎 西村繁男 絵/童心社

蔦屋書店・佐藤のオススメ『がたごと がたごと』内田麟太郎 西村繁男 絵/童心社
 
 
サクラ咲く中を走る電車が表紙に描かれた『がたごと がたごと』は、個人的に、ちょっと懐かしい気持ちになる絵本です。というのは、まだ私が自分の子どもを持ってそれほど経っておらず、絵本のこともほとんど知らない頃に、たまたま立ち寄った書店の店先で見つけて息子のために購入し、そうしてとても気に入って、誰かにもすすめたいと思ったはじめての絵本だからです。
本に限らず何でもそうでしょうが、予備知識のない白紙の状態で出会って、その良さを自分自身で実感できたものというのは、当人にとってどこか少し特別なものになるように思います。そんな“オススメ”の何か、みなさんにもありませんか?
 
『がたごと がたごと』は、一見おはなしの絵本のようにみえますが、中身はどちらかというと「探し絵本」になるのかなと思います。対象年齢はおそらく4.5歳くらいからで、当時の息子と読むのには少し早すぎたのですが、子どもが大きくなるのを待つよりも、まず自分のほうが「これ面白い!」と、心から楽しんでしまっていたことを思い出します。時の経つのは早いもので、それも随分昔のことになってしまいました。
 
『ミッケ!』や『ウォーリーをさがせ!』などの人気の定番探し絵本で遊ぶのも楽しいですが、『がたごと がたごと』は、そうした通常の探し絵本にあるような設問形式にはなっておらず、また答えを見つける過程においてちょっとしたひねりが効いているのが特徴です。シンプルだけど遊び心あるアイデアを元に作られた、とても個性的で面白い本だと思います。
 
具体的な本の内容をご説明しますと、登場するのは「がたごと がたごと」と走る一台の電車。駅のホームに集まった人々を乗せて出発し、そして目的の駅に到着した車両から、ぞろぞろ乗客が降りてくるという一連の流れが、全部で三回描かれます。
それのどこが探し絵本なのかと申しますと、最初に乗り込んだお客たちが、目的地に到着して降りてくるときに、姿が変わってしまっている。普通の乗客が、不思議な電車の旅のあいだに異形のものに変身してしまうのです。どのお客がどんな姿に変わってしまうのか?誰と誰が同一人物なのか?これはそのビフォー・アフターを見比べて楽しむ、少し変わり種の探し絵本です。
 
まず最初の旅の目的地は、その名も“おくやま駅”。都会を遠く離れ、山奥の温泉地の駅に着いた電車から降りてくる乗客は、熊やら羊やら馬やら猿やら、みんな残らず動物の姿に変わってしまっています。乗客たちの服装は乗ったときのままなので、それを頼りに前のページと変身の答え合わせ。いやこれはもしかすると、もともと動物だったものたちが、街中で人になりすましていたということではないか。そう思いながらページを戻って見てみると、電車に乗り込む人たちの顔が動物そっくりに思えてきて、なかなか味わい深い面白さがあります。
 
さて、そのように最初の旅では、お客の着ている服装からわりあい簡単に答えが導き出せるのですが、続く二番目の旅では、それが少し難しくなってきます。今度の行き先は「よつつじ駅」…そう、お化けの国です。電車から降りてきた人たちの姿は、体つきも変わり果て、もはや洋服は着ていたりいなかったり。「こんなになっちゃったの!?」と、思わず唖然としてしまう変身ぶりなのですが、しかしはじめに乗った時の様子を手がかりに推察すれば、それぞれのお客の正体が、実はどんな妖怪であったのかを、充分知り当てることはできるでしょう。ヒントになるのは、背格好や顔つき、それから着ていた洋服の生地の色柄、あとは持ち物など。…問題の難易度が少しあがったぶん、答えが分かったときの喜びもひとしおです。
 
そして最後を飾る三番目の旅は、時空を超えたタイムトラベル。乗客の変身クイズはいちだんとレベルアップして、読者はきっとひとつ問題を解くごとに、快い達成感を得ることができるでしょう。作品のフィナーレとなる「チャンバラ驛(えき)」のスペクタクルで混沌とした様相を描いた場面は、大迫力ながら細かい設定を背後に感じさせる遊び要素も満載で、まさに見応え充分のページとなっています。
 
言ってみれば、本書の面白さの肝は、一種の“伏線回収”にあるのかもしれません。はじめに描かれていた一見普通のものが、後から別の意味をもって浮かび上がってくる。繋がりが見えてくることで得られる納得感とカタルシス。『がたごと がたごと』は、基本的には子どものための絵本として作られていると思いますが、多くのミステリや謎解きなどに欠かすことのできない人々を引き付けるそうした手法が、エッセンスとして探し絵本の遊びの中に採り入れられていることで、子どもだけでなく大人のアンテナにも引っ掛かり、私のようについ子どもそっちのけで楽しんでしまいたくなるような魅力ある作品になっているのではないかと思います。
 
20年前に購入した我が家の『がたごと がたごと』は、おそらく当時百回以上は行きつ戻りつしながらページを繰られた挙げ句、背表紙も半分外れてボロボロです。久しぶりの懐かしの愛読書について、どう思うか息子に尋ねてみたら、しばらくパラパラ眺めた後に、「もしこれが探し絵本だということを知らないまま読んでもらってる子どもがいたとして…その子が自分で、この絵本の中にたくさんのクイズが隠れてるのを見つけることができたとしたら、きっとビックリしながらすごく感動するだろうし、それに気付けるその子ってスゴいよね。」と、言っていました。なるほど、たしかにその通り。作者の方はそうしたことも意図して、この絵本を作られたのかもしれません。
冒頭でも申し上げたことですが、自分自身で面白さを発見するって、ちょっと特別な経験です。もしご家庭でこの絵本を楽しむ機会がありましたら、おうちの方は探し絵本だと教えたくなる気持ちをぐっと我慢して、しばらくはお子さんの様子を見守ってあげてみる、というのもいいかもしれません。
 
本書は発売から38刷を重ねるロングセラーですが、外から表紙とタイトルを見ただけでは、内容のユニークさが少し分かりにくい本でもあるので、この面白さをご存じの方は、まだまだ少ないのではないかと思います。大勢で囲んで遊んだり、一人でじっくり取り組んだり。これ一冊でたくさん楽しめる、とってもお買い得でオススメの絵本です。よろしければどうぞ店頭で実際に手に取って、ゆっくりご覧になってみてください。
 
 
 

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