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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.317『戦争語彙集』オスタップ・スリヴィンスキー作、ロバート・キャンベル訳著/岩波書店

蔦屋書店・神崎のオススメ『戦争語彙集』オスタップ・スリヴィンスキー作、ロバート・キャンベル訳著/岩波書店
 
 
2022年2月24日、ロシアがウクライナに侵攻。
 
このニュースに世界中が目を耳を疑いました。なぜ、なんのために。
破壊される街、傷つき逃げ惑う人々、亡くなった家族の名を叫ぶ人、笑顔を忘れた子どもたち。
もうすぐ2年になろうとしている現在もまだ戦いの終わりは見えてきません。
 
『戦争語彙集』は2023年5月にウクライナで刊行されました。ウクライナの詩人オスタップ・スリヴィンスキー氏が編んだ戦火の中で暮らす人々から聴き取った77の単語とそれにまつわる物語です。本書はこの『戦争語彙集』を前半に、後半は日本文学研究者のロバート・キャンベル氏が実際にウクライナを訪れて人々の体験を聞き、戦争で変わっていく言葉と向き合った旅の記録で構成されています。
 
言葉は時代や環境によって意味や表情を変えていきます。戦争語彙集に収録されているのは戦争の色に染まってしまった何気ない言葉たちです。
 
ある若い女性は若さや美しさを楽しむことができない恐怖を「戦争では、きれいなものが危険になる。憧れと愛撫のためではなく、苦しみのためにある」「きれいなもの」)と語っています。
また避難者を迎えたある女性は「スイーツとは、恐怖を覚える時に食べるものです。ミサイルが頭上を飛び交うことのなかった平和な子ども時代に戻りたくて、スイーツを食べるのです」「スイーツ」)と話しています。
 
ロバート・キャンベル氏は実際にウクライナで人々と対話し、これらの戦争語彙と向き合いました。キャンベル氏の旅の記録を通して感じたのは、恐怖と隣り合わせという非日常の中にあって、人々が日常を失わないように生活していることです。そしてそこには言葉の大きな力があるということも。キャンベル氏は言葉をシェルターに例えています。
 
シェルターには、人々の暮らしを保たせるための物資があります。同じように、シェルターの中にある言葉は、人々にとっての杖になったり、屋根になったり、場合によっては、飲料水になっているのではないでしょうか。… いま実際に目の前にいる人と、その息づかいを感じながら語り合うことで、言葉は心の糧になるのです。
 
戦争語彙集にあるのは戦争という非日常に染まった言葉たちですが、それは戦時下で暮らしている人々の力強さや生命力を表した言葉たちのようにも感じます。
 
現在、戦争状態にあるのはロシアとウクライナだけではありません。いくつかの国、地域、民族が土地や宗教などをめぐって争い、一触即発の国や地域はもっと多くあります。人類の終末時計は残り90秒だといいます。互いに憎み合い、殺しあって終わらせてしまうほど人類は、人間は、愚かではないと信じています。
 
 
 

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