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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.316『風に立つ』柚月裕子/中央公論新社

蔦屋書店・江藤のオススメ『風に立つ』柚月裕子/中央公論新社
 
 
近すぎると見えにくくなってしまうけど、ちょっと距離があると見えやすくなるものってなにかわかりますか。
今回は、柚月裕子さんの最新作『風に立つ』を紹介したいと思います。
 
柚月裕子さんといえば、広島の呉を舞台にした『孤狼の血』で有名です。私は生粋の広島人なので、柚木さんに対しては『孤狼の血』のイメージが強く、めちゃくちゃハードボイルドで暴力描写も凄まじいゴツゴツとした小説家という印象が実はありました。しかし、柚月裕子さんの著者近影をみて驚いたのです、とてもそんな暴力的な小説を書くようには思えない女性だったからです。かなり昔ですが、実際に広島で映画のロケがあったときに、柚月裕子さんにお会いしたことがあったのですが、とても穏やかでむしろ可愛らしい女性でさらに驚きました。どこからこんな小説が出てくるのだろうかと。
 
さて、今作ですが。こちらは家族というものを丁寧に描いたとても素晴らしい小説です。
舞台は南部鉄器を作っている小さな工房。その工房は親子2代で営んでいるのですが、実は父と息子の仲はあまり良くありません。
父親は非常に熟練した南部鉄器の職人なのですが、息子から見ると、仕事のために家族を顧みない非情な父親で、母親にも苦労をかけて、自分に対しても愛情をかけてもらえなかったという思い込みがありました。そんな父親が、罪を犯してしまった少年の補導委託を受け入れる申し込みを息子に相談もなく勝手にしていたのです。そしてある日突然、万引きなどの問題行動を犯した少年が連れてこられて、息子はその事実を知るのです。
補導委託というのは、罪を犯した少年を自宅ではなく、補導委託の受け入れをしている家族のもとで一定期間生活をしながら更生の道を探っていくというものです。その受け入れ先として申し込まれていたのです。
 
もちろん息子は大反対をします。自分の息子にも向き合って来なかった父親が問題を抱えた少年の世話などできるはずがないというのです。しかし、父親は、全ては自分の責任で行う。お前たちに絶対に迷惑をかけない。と言い張って少年を受け入れます。そしてここから少年とその家族の生活が始まるのですが、この先はぜひ本書を読んで、いったいどうなってしまうのか、見届けてください。
人と人が本当にわかり合うとはどういうことか、繊細な少年がどのようにして他人の家族に心を開いていくのか、そして少年の家族と、工房の家族の両方の再生。と畳み掛けるような展開で心が暖かくなり、人を信じるということをもう一度考えたくなる、そんな素晴らしい小説となっています。
 
南部鉄器職人のお仕事にも触れられる、お仕事小説としても非常に興味深いので、この本を読み終わってから、無性に南部鉄器が欲しくなってしまいました。
 
さて、冒頭に投げかけた質問ですが、きっと皆さんならもうおわかりだと思います。
私もおそらく見失ってしまっていて、よく見えていない気がしますが
 
近すぎると見えにくくなって、ちょっと距離があると見えやすくなるもの
 
それは愛情ですね。
 
無愛想な職人の本当に愛情に胸が熱くなること間違い無しの一作です。
 
愛を見失ったあなたにも!
ぜひおすすめです。

 
 
 

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