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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.336『サド侯爵の呪い 伝説の手稿『ソドムの百二十日』がたどった数奇な運命』ジョエル・ウォーナー著 金原瑞人+中西史子訳/日経ナショナルジオグラフィック

蔦屋書店・神崎のオススメ『サド侯爵の呪い 伝説の手稿『ソドムの百二十日』がたどった数奇な運命』ジョエル・ウォーナー著 金原瑞人+中西史子訳/日経ナショナルジオグラフィック
 
 
「事実は小説より奇なり」
 
本書は想像を超え、フィクションで描くことは不可能だろうと感じるほどスリルに満ちたノンフィクションだ。サド侯爵=マルキ・ド・サドの手稿(直筆原稿)『ソドムの百二十日』のたどった運命を軸に、サドの波乱に満ちた人生と『ソドムの百二十日』を手に入れようとする蒐集家や投資家の姿を革命時代のフランスから現代までの長い時間の中で丹念に追っていて、ノンフィクションならではの醍醐味を味わえる。
 
マルキ・ド・サドはサディズムやサディストの言葉の由来となった人物だ。性的快楽を得るための暴力や虐待などで罪に問われ、大半を監獄や精神病院で過ごす。
『ソドムの百二十日』はバスティーユ監獄の独房で執筆された。それは「三十三枚の羊皮紙をしっかり貼り合わせた幅約十センチ、長さ十二メートル近くの巻物」で、「巻物の表裏に合計十五万七千個もの単語がびっしりと埋め尽くされているうえ、文字は極めて小さいので、虫眼鏡がなければ読めないほど」のものだった。この『ソドムの百二十日』の手稿はフランス革命で所在不明となるが、バスティーユ解体の混乱の中で一人の男に発見されて密かに持ち出され、その後ヨーロッパの蒐集家たちの間を転々とする。
 
『ソドムの百二十日』を手に入れようとしたのは、稀覯本やエロティック本のコレクターたちで、そこにあったのは手稿本の歴史的価値への思いや愛着だった。ところが2014年に巨万の富を築いた一人の男が『ソドムの百二十日』を手に入れる。アリストフィル社のジェラール・レリティエだ。手書き文字の時代が終わろうとしている中で、彼は、手紙や原稿などの手稿を投資や投機の対象としてビジネスを展開する。レリティエにとってサドの手稿『ソドムの百二十日』は彼のビジネスと成功の象徴だった。しかしこのビジネスはやがてヨーロッパ中を巻き込む巨大詐欺事件へと発展していく。
 
現在、波乱の人生を送ったサドは再評価され、多くの人を翻弄した手稿『ソドムの百二十日』はフランスの国宝となっている。まさしく「事実は小説より奇なり」である。
 

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