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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.333『これが生活なのかしらん』小原 晩/大和書房

蔦屋書店・犬丸のオススメ『これが生活なのかしらん』小原 晩/大和書房
 
 
「この人は凄い!天才かもしれん」と思っている人が「凄い!」と勧めるものに、興味が湧くのは当然のことで。
 
小原晩さんもそうだった。
8人組コントユニット・ダウ90000の主宰・蓮見翔さんが、嫉妬した芸人&クリエイターとして、小原晩さんを紹介していた。蓮見さん曰く「言葉の選び方と切り抜き方が桁が違う」と。蓮見さん自身ただものではないと思っていたので、すぐに読みたくなって本屋へ走った。
 
先に言ってしまえば、エッセイスト小原晩さんは天才!
小原さんが経験してきた日常を優しくほわほわっとした語り口で書いているが、ほわほわした気持ちで読み進めると、急に心がギュギュっとなることが起きたりする。ほわほわのままギュギュっとする。ままならない日常が、読み手の感情もままならなくする。この感覚は、この場でエッセイのストーリーをただ紹介したところで伝わらないだろう。彼女の心の視点と言葉のつながりの絶妙なバランスから生み出されている。しかも、このバランスは計算されたものではなく、小原晩さんそのものなのだろう。まだ読んでいない方にはこの心の不思議な揺れをぜひ体験してほしい。
 
日常といっても、結構ハードねと思うような日もある。そんな日のエッセイなのに可笑しみがあって、一層愛おしい。特に実家から出て住んだ美容院の寮での暮らしは、傍からみるとなかなかに凄まじい。与えられたスペースはいくつも並ぶ2段ベッドの上段をひとつ。そこへスチールラックと小さな机、シングルサイズの布団、それだけ。ベッドを仕切るヒョウ柄のカーテン。18歳では嫌になりそうな環境だが、そこを城だという。安心だといい、自由が私のものとなったのだという。初めての休日に城にこもって十本入りのチョコチップパンを大切に頬張りながら、自分の未来について考えながら眠ってしまう姿は微笑ましく、そっと肩まで布団をかけてあげたくなる。このエッセイの不思議さはもうひとつ、いつの間にかエッセイの世界の中に住んでしまっていて、小原さんの隣にいるような気持ちになることだ。
 
そのうえ小原さんのエッセイには中毒性がある。
読み終えた瞬間に他に読めるものはないかと探してしまう。
次に手に入れたのは、2022年に自費出版されたデビュー作『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』。
タイトルにもなっているエッセイ「ここで唐揚げ弁当を食べないでください」が最初に掲載されているのだが、これが驚くほどおもしろい。すでに「小原晩節」は出来上がっていて、突然ドキッとさせられて焦りまくって、ついにはエッセイの中の小原さんと一緒に駆け出してしまっているような感覚になる。さらに読み進め終わりに近づくほど、可笑しみが加速して小原さんのことがどんどん好きになる。
 
 
先日、小原 晩さんのインスタグラムで知った。
『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』は、新たに17編のエッセイを加え11月中旬に実業之日本社より出版される予定だという。新しいエッセイが17編もあるなんて!待ち遠しい。嬉しい未来の予定が毎日を楽しくする。
 
なにげない日常は、本当はなにげなくなんかない。ただウインナーを焼いているときにだって、その人の心の視点でこんなにも天才的なエッセイとなって感情を揺らす。ドラマにもコントにもなる。毎日ちょっと退屈という人へ、おすすめしたい一冊なのである。
 
 
 

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