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広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.338『ユニコーンレターストーリー』北澤平祐/ホーム社

蔦屋書店・江藤のオススメ『ユニコーンレターストーリー』北澤平祐/ホーム社
 
 
殺伐とした世の中。
触れたくもない情報があふれ、情報のスピードも非常に早くなり、めまぐるしく自分の周りが状況を変えているような気がして、ついていくのにいっぱいいっぱいになってはいませんか。本当は、そんなに多くの不必要な情報に自らをさらす必要もなく、情報の速さを追求する必要もなく、周りに合わせるために必死でついていく、なんてことは不要なはずです。だって、少し前までは、こんな状況じゃありませんでしたよね。インターネットや携帯電話が無かったころのほうが、もっとゆっくりと生活を楽しんでいたような気がしませんか。
 
この物語の主人公は、幼馴染のハルカとミチオです。10歳になったときミチオがアメリカに住むことになります。
そこでふたりは文通を始めるのです。日本とアメリカでの文通ですから、時間もかかりますし、手書きの手紙はもらってすぐさま返せるようなものでもないので、タイムラグも生じます。もらってから、しばらく忙しく手紙を書くことができなくて、だいぶ遅れて返事が着たりもします。それでも、ふたりはあわてることなく、やり取りを続けていくのです。
 
ミチオはアメリカで日本とは違う文化の中、戸惑うことも多く、すぐに馴染むこともできませんが、心を落ち着かせる場所としてふたりの文通が機能するのです。お互いの近況や思いなどを文通によって共有していくふたり。そのうちにミチオもアメリカでの生活に慣れてきて、仲間もできて生活が変わっていきます。それでも、文通はゆっくりとふたりを繋ぐのです。途中で、ふたりは最近はやりのインターネットを使ったメールなどもしてみますが、やっぱりふたりのスピード感と温度感には合わないようで、そうそうにやめてしまって、また手紙に戻ります。ハルカはイラストが得意で、ハルカの飼っているかわいい猫のハッチのイラストも手紙に添えます。そんなイラストや手書きの文字の暖かさがふたりには合っているんですね。そしてハルカのイラストがふたりを新たな関係へと引っ張っていくのですが、それはこの本を読んでのお楽しみにしてください。
 
さて、この本ですが、北澤平祐さんというイラストレーターの方が書いています。
本職がイラストレーターさんなので、小説というよりは、絵物語?絵小説?と言ったほうがもしかしたらしっくりくるのかもしれませんが、やはり私はこの本は主人公ふたりの生活を追った小説だと思います。
ただ、とてもかわいらしいイラストが小説の文章の間に描かれていて、眺めているだけでも幸せな気持ちになります。特に猫のハッチがかわいい!イラストの雰囲気と物語の雰囲気、どちらも同じで、とても柔らかく、しなやかで、かわいらしい。そしてふたりの関係性が手紙のやり取りから見えてくるのですが、お互いを信頼していて、お互いを思いやっていて、お互いの未来がよくなるように一生懸命考えているのが本当によく伝わってきます。
 
何もかもスピードアップして、せわしない今だからこそ、このふたりのやり取りに心を癒されるのでしょう。
 
あなたもお気に入りのペンを使って、きちんと選んだちょっといい便箋で、大切に思うあの人に手紙を書いてみませんか。メールやラインでは伝わらない「なにか」が伝わるはずですよ。
 
 
 

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