広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.350『ありか』瀬尾まいこ/水鈴社
蔦屋書店・飯田のオススメ『ありか』瀬尾まいこ/水鈴社
人と人の確かなつながり、そして多様性のある家族のあり方を描いてきた瀬尾まいこさん。
『そして、バトンは渡された』では様々な家庭環境で育った少女と、親たちが登場しました。血のつながりよりも互いを思いやるやさしさ。血のつながりがなくとも愛情ある家族のかたち。また子どもだけでなく、親も子育てをとおして成長していく姿が描かれました。
『そして、バトンは渡された』では様々な家庭環境で育った少女と、親たちが登場しました。血のつながりよりも互いを思いやるやさしさ。血のつながりがなくとも愛情ある家族のかたち。また子どもだけでなく、親も子育てをとおして成長していく姿が描かれました。
本作『ありか』は、血のつながりがある母と娘の関係が正面から描かれます。瀬尾さん自身が「私の人生を全部込めたと言い切れる」と語るように、『ありか』は瀬尾さん自身の体験や家族観が強く投影された、作家として転換期となる私的小説ともいえるのではないでしょうか。
離婚後、シングルマザーとして一人娘のひかりを慈しみ育てる美空。彼女は慌ただしい子育ての中でふと考える。私は母親から愛されるべき存在ではなかったのではないだろうか。
それまでの美空は当たり前のように考えていた。子育ての中で親への恩を思い知る。親は何もかも犠牲にして育ててくれたありがたい存在。だが、ひかりの寝顔を見るときに美空は考える。どこに恩を感じさせるべきところがあるのだろうか。
それまでの美空は当たり前のように考えていた。子育ての中で親への恩を思い知る。親は何もかも犠牲にして育ててくれたありがたい存在。だが、ひかりの寝顔を見るときに美空は考える。どこに恩を感じさせるべきところがあるのだろうか。
事あるごとに親の恩を盾に美空に金の無心してくる母親との関係に悩みながらも、美空とひかりを見守る、世話好きで同性のことが好きな義弟や、職場の先輩やママ友たちとの、厳しくも温かく優しい一年間にわたる物語。周囲の支えによって過去の自分を受け入れ、母親と対話する勇気を得た美空の成長を最後まで見届けてもらいたいと思います。
また本作は新進気鋭の出版社、水鈴社の設立5周年を記念して刊行されました。担当編集者の「瀬尾さんとお子さんの話が読みたい」という思いからスタートした『ありか』は大切な家族がいる人、家族との関係に悩む人、ひとりに悩む人、多くの人に温かさと希望を届けてくれます。