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【イベントレポート】ヒロッタ!#2 安藤桃⼦トークショー

 
文・清水浩司
 
今年5月、建築家・谷尻誠のトークショーでキックオフした「ヒロッタ!」。「ヒロッタ!」は“本”と“広島”をテーマにした広島蔦屋のクリエイティブ・セッション。そこには本を売る場所としてだけではなく、書店を情報発信の拠点にしていこうという願いが込められている。
そんな「ヒロッタ!」の第2弾として7月31日(日)、映画監督・安藤桃子のトークイベントが開催された。聞き手は前回と同様、フリーパーソナリティの兼永みのりと作家・ライターなどを務める清水浩司。当日はセンスのいい服に身を包んだ女性を中心に多くの観客が集まった。

 
 

 
 
今回のトークには昨年秋に安藤さんが上梓したエッセイ集『ぜんぶ 愛。』(集英社インターナショナル)のタイトルが冠されている。本書は安藤さんが愛する家族について、また現在暮らす高知についてユーモアたっぷりに綴ったもの。まずはその本の話題からスタートした。
 
 
 
 

最初に安藤さんから語られたのは書籍制作時の話。この本、もとは『ぜんぶ 愛。』ではなく別のタイトル案があったという。それが「魂、若干抜けてました」。なんじゃそれ! ていうかタイトルの方向、ほぼ逆じゃないですか?
 
「タイトル用に何案か出したんですけど、みんな「これがいい!」って。「これは秀逸だよ。センスが光ってる」って言われたら私もだんだんそうかもしれないと思いはじめて。ブレブレ、ゆらゆらです(笑)。だけど私、本当は魂は抜けないって思ってるんです。私はポンコツで意識が抜けるときはあるかもしれないけど、揺るぎない魂は人間の核、それは不動――そういうことを書いた本なのに「魂、若干抜けてました」っていうのはどうなんだろう?って思ってたんです。でも締切ギリギリまでそれを確信できなくて、「納得いかない形で出すのなら出版をやめるしかない!」とまで思い詰めて。そのとき、その覚悟が決まったら、パッと「ぜんぶ愛だわ」って感じられたんです。愛って言い切る勇気が湧いたというか。“愛”とかクサイって言われたらどうしよう?とか不安に思っていた自分にも気付いて。「納得いかないならやめる」と肚を括った瞬間、そう言い切れる勇気が出てこのタイトルになったんです」
 
なんといういきさつか。でもこの瞬間、個人的に思っていた安藤桃子像はいい意味で破壊された。あ、安藤さんもモヤモヤするし、「ぜんぶ 愛。」って言い切るのに躊躇するタイプの人なんだな、と。
 
 
 
 
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その後も安藤さんのトークは縦横無尽に展開した。バーッと突っ走り立ちどまって、「……えっと、質問なんでしたっけ?」と笑うシーンが何度もあったが、それこそまさに安藤桃子。考える前に走り出す前傾姿勢が「こういうことか」と伝わってくる。
 
次の話題は家族について。父・奥田瑛二さんとの思い出。
 
「わが家では10歳のときに自分のなりたいものを宣言する儀式がありまして。父自身が10歳のとき、自分は将来俳優になると夢を決めて、そのまままっすぐ歩いてきた人なんです。自分も10歳のときに自分の道を見つけたから、おまえも見つけろ、と。それは目的地がわかっていたら人生はそこに至る道をまっすぐ歩けばいいだけ、たとえ迷ってもその道に戻れば大丈夫ということを教えてくれようとしたんだと思うんです。で、私は絵を描くことが好きだったので「絵を描く人になる」と宣言しました」
 
母・安藤和津さんに対する想いとは?
 
「私自身が出産を経験して思ったのは「産んでくれてありがとう」。娘を産んだときフーンといきんで4回目に出てきたんですけど、3回目に上半身まで出てきて、そのときこの世に出てきたばかりの娘と初めて向かい合って「あなたなのねー!」って思ったんです(笑)。その命がけの瞬間「ご先祖様、お母さん、ありがとう!」って気持ちが湧いてきて。さっきまでお腹の中にいてシワシワだったからかもしれないけど、出てきた娘を見た瞬間、彼女は先祖から脈々と連なる生命の先頭を行ってる姿だって本能的に感じたんです。私という人間は祖先のお母さんが1人でも諦めていたら存在しないし、娘もいなかったわけです。それはいま生きてる人すべてにあてはまる。だから「お母さんありがとう。産んでくれてありがとう」という気持ちが一番ですね」
 
そして現在暮らす高知との運命的な出会い。
 
「私は映画監督なので0を1にするというか、何もないところに「これをしよう!」って決めてそこにみんなで向かっていくのが仕事。それが高知の県民性とフィットしたというか。高知は坂本龍馬やジョン万次郎、いろんな人物がいるけど、太平洋と四国山脈に囲まれているから、想像が海や山を超えて外へと向かう意識が芽生えたんだと思います。地続きだといろんな情報が入ってくるけど、入ってきづらいから誰も考え付かないようなことを「とりあえずやってみるか!」って走り出しちゃう県民性なんです」
 
 
 
ここで観客は大きくうなずく。そんな高知での生活は彼女の創作姿勢にも大きな気付きをもたらしたようだ。
 
「高知は道端とかあらゆるところにアンパンマンがいるんです。やなせたかし先生の出身地だから。アンパンマンも「自分が何のために生まれてきたか、答えられないのはいやだ」って歌ってますよね。その生まれてきた意味は実はすべての人が持っていて、自分の心に聞いていけば知っている。私の場合、それは「すべての命に優しい世界を実現したい」ということに気付いたんです。「壮大すぎじゃない?」って思いますよね(笑)。それでも私は「みんなにとって優しい」ことを知っていきたいし、それは「ぜんぶ愛」ってことでしかないと思うんです。中には「綺麗事だ」と言う人もいるかもしれないけど、綺麗事を貫き通すことはとても厳しくもある。それでも最後までやりきるというのが高知の県民性なんです」
 
七転八倒しながら無謀とも思える理想を目指す、その心意気と土佐の荒波はなんと相性がいいことだろう。
 

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その後も安藤さんは観客からの質問に丁寧に答え、高知から持ってきた桃山商店のハーブティー「桃山トゥルシー」はオマケがテンコ盛り、さらに1袋1キロ近くあるヒマラヤ産の岩塩を来場者全員にプレゼントするという太っ腹ぶり。一体どれだけパワフルで、どれだけサービス精神旺盛なのか驚かされる。
とにかくすさまじい生命力とくるくる回る豊かな感性で、あっという間に終了した90分。前回の谷尻氏のときも思ったが、こうしたリアルイベントの魅力はゲストの人柄や雰囲気をダイレクトに感じられるところにあるのだろう。
今もまだ安藤さんがまきちらしたポジティブな波動が友達の忘れ物のように残っているようである。

 
 

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