【広島 蔦屋書店】ミュシャを旅する

フェア・展示
2号館1F 広島 蔦屋書店 2018年03月12日(月) - 04月16日(月)
ミュシャを旅する
(広島 蔦屋書店 コンシェルジュ 犬丸)
 

【パリ時代】

1894年12月。パリ。

日差しが少なく、どんよりとした雲が立ち込め空は低く、とても寒い。

街には多くの劇場が建ち並び、オペラや演劇など次々と新しい芸術が生まれていた。「ベル・エポック」(美しい時代)だ。

いつもは賑やかな石畳の街も、クリスマスを迎えるこの頃は店も閉まっているため人通りも少ない。みな、家族で楽しむために休暇を取っている。

 

少し眉根をよせ不安げな表情の、美しい女が歩いている。彼女の名は、サラ・ベルナール。『黄金の声』との異名を持つ大女優だ。彼女は悩んでいた。もうすぐ大きな舞台があるというのに、まだポスターを描いてくれる画家が見つからない。この時期、デザイナーの多くもクリスマス休暇を取っていた。

しかし、彼女の足はまっすぐに目的の場所へ向かう。心は決まっている。

「彼しかいない」

やがて、一軒の印刷所にたどり着く。扉の前で深く息を吐く。彼女からもはや不安など感じられない。瞳には自信がみなぎっていた。

「必ず、彼に描かせてみせる」

そうつぶやくと彼女は勢いよく扉をノックした。

 

その男は、印刷所に勤めながら絵の仕事をしていた。大量印刷の技術の発展とともに、出版業界は忙しい。挿絵などの仕事は山ほどあった。

彼の後ろで勢いよく扉がノックされる。開いた扉の向こうに立っている美しい女。その女のことは知っている。

「サラ・ベルナール。なぜ、ここに。」

彼女の、唇が開く。

「アルフォンス・ミュシャに会いに来たの。」

 

 

ミュシャが描いたサラ・ベルナールの舞台ポスター『ジスモンダ』は、当時のパリで喝采を持って受け入れられた。

目線を少し高くスタイルのよい女性が右手に一振りの棕櫚(シュロ)の枝を掲げている。

このポスターを観ているわたしたちは、彼女の目線から棕櫚の枝を通り『ジスモンダ』とアーチ状に書かれた『サラ・ベルナール』の文字を読む。彼女が纏っているドレスは、色調を抑えてはいるが、緻密で繊細、緩やかに曲線を描く衣装の柄は、女性の曲線をもイメージさせ、とても美しい。『ミュシャ様式』(アール・ヌーヴォー)と言われる装飾美だ。

わずかな期間でミュシャが情熱を注ぎ描いた等身大ほどもあるポスターに、サラはとても満足したことだろう。その証拠にサラはこの後6年間ミュシャにポスターを依頼している。

そして『ジスモンダ』の成功はミュシャを一流へと押し上げた。次々と大きな会社からデザインの依頼が舞い込んだ。

わたしたちがよく知るミュシャだ。ミュシャが描く女性は美しい。女性の頭部には花冠や宝飾が施され豊満な体をドレープのきいたドレスが包み、優しい風さえも感じる。風に乗って花の香りが立ち込めてくるようだ。そして、女性たちの表情は情熱や自信に満ちている。女性であることを喜び強く生きている。

 

【チェコ時代】

 

1910年。チェコ。

「わたしには、描きたいものがある。」

ミュシャは故郷チェコに家族とともに帰ってきていた。

 

「わたしのなかには、いつもあの旋律がながれている。」

彼が、今でも思い出すのは2年前のコンサートだ。スメタナ作曲の交響詩『わが祖国』。のびやかに響く弦楽器の調べは、幼いころの光景を思い出す。家族、友人、忘れえない初恋の人、日常があった。そして、他国からの支配の歴史の中でもわたしたちは愛国の魂を捨てることは無かった。

その構想はパリ時代からあったが、運命的な瞬間だった

「わたしに流れるスラブの血。わたしの魂だ。…そして、わたしの愛する故郷…チェコ…。」

 

大国に囲まれた東欧の国、チェコ。その歴史は、複雑だ。様々な国からの支配が繰り返され、ミュシャが生きた19世紀にはスラブ民族の連帯と統一を目指す思想運動『汎スラブ主義』が起こる。

ミュシャが晩年描いた『スラブ叙事詩』を知っているだろうか。それは、20点からなる連作で、1点が6m×8m、小さい物でも4m×5mもある超大作だ。今までの華やかな画風とは異なり、スラブの歴史を通しミュシャの故郷、チェコへの愛国心を描いている。1作目の『原故郷のスラブ民族』は特に宗教的だ。星が無数にまたたく夜空は深く青く大地までも染めているかのようだ。向かって右側には神が浮かび左下中央寄りにはうずくまりながら重なる2人の男女。不安とも畏れともとれる表情でこちらをまっすぐ見つめている。

もし、あなたがパリ時代のミュシャしか知らないのなら、この絵を観ただけでも彼が装飾デザインだけではなく画家として素晴らしい力量を持っていることを充分に解ることが出来るし、今まで知らなかった画風に触れて、ますますミュシャへの興味が湧いてくるだろう。(プラハ国立美術館所蔵)

チェコに帰ったミュシャは他にも故郷のために切手や紙幣、ポスターなどデザインの仕事を多く手がけているが、やはり印象的なのは民族衣装を着た女性の絵だ。パリ時代と違い牧歌的で大地を強く踏みしめている。土の香りまで漂ってくるようだ。ミュシャの愛国の魂が伝わってくる。

 

 

今、ひろしま美術館ではミュシャ展が開催されている。(4月8日まで。)まず、第一室に入ると冒頭でも書いた『ジスモンダ』に出会える。実際にポスターに描かれた衣裳を着けたサラ・ベルナールの写真もあり、1890年代のパリが一気に現実味を帯びてくる。もちろん、それらの有名な絵も良いが、今回の企画展の面白さは、ミュシャの学生時代のノートや挿絵の原画、素描、装飾パネルなどミュシャを知る資料的な要素も大きいチマル・コレクションのみで構成されているところだ。幼年期から始まる広範なコレクションはミュシャの人生そのものを一緒に歩いているかのようだ。音声ガイドもお薦めで、ミュシャが語りかけてくる。ミュシャに案内されながら、ミュシャの人生を旅する。時空を超える旅だ。バックに流れる『わが祖国』より『モルダウ』の有名な一節も聞き逃してはならない。

 

そして、ミュシャに興味があるならもう一つお薦めしたい場所がある。それは、大阪の堺にある『堺アルフォンス・ミュシャ館』だ。こちらは、日本で最も有名なミュシャコレクター・土居君雄氏が亡き後、堺市に寄贈した所蔵品(ドイ・コレクション)を年間通じて観ることが出来る美術館だ。土居氏は、まだミュシャの知名度が低いころから作品を個人的に収集し、日本でミュシャを紹介した第一人者でもある。

今回のミュシャフェアはポスターも併せて鑑賞していただきたい。両面異なる女性の絵。華やかな女性と民族的な女性。対照的な美しさがある。これら2つの絵はどちらもドイ・コレクションからお借りした。

 

美術品などを鑑賞するとき、「きれい」「美しい」「好きだ」と素直に感じる心は大切だ。だが、その作者やその時代背景などを知って観れば、その作品を描いた意味が解り、よりドラマチックにあなたを揺さぶるのだ。

 

【協力】

ひろしま美術館

特別展 ミュシャ展 ―運命の女たち―

2018年2月24日(土) - 2018年4月8日(日) 会期中無休

9:00 ~ 17:00/金曜は~19:00(入館は閉館の30分前まで)

〒730-0011 広島市中区基町3-2

TEL 082‐223‐2530

(HP『ジスモンダ』画像のご提供)

 

堺 アルフォンス・ミュシャ館

企画展 ミュシャと新しい芸術 アール・ヌーヴォーとミュシャ・スタイル

2018年3月17日(土)- 2018年7月8日(日)

午前9時30分~午後5時15分(入場は午後4時30分まで)

休館日月曜日(休日の場合は開館)

〒590-0014 堺市堺区田出井町1-2-200
ベルマージュ堺弐番館2F~4F

TEL 072-222-5533

https://mucha.sakai-bunshin.com/

 

株式会社 ドイ文化事業室

代表取締役社長 土居なおみ

美術館でしか手に入らないミュシャグッズをお取り寄せいたしました。

(フェアポスター、HP『夢想』『巫女』『ポエジー』画像のご提供)

 

【お取り扱いブランド】

 

Mari dried flower + corsage

ミュシャが描く強くしなやかな女性をイメージして制作した、新作ドライフラワーのみを展示販売いたします。暮らしにいつも華やかさを。

https://www.instagram.com/kodamari/

 

 

flua

世界中から集めたヴィンテージリメイクのジュエリーの製作・販売

ミュシャが描く柔らかな曲線の装飾美をイメージして、お花のモチーフのみで新作を制作。耳元に花冠のような揺らめきをお届けします。

https://flua.thebase.in/

 

CHARKHA

チャルカにあるのは、チェコやハンガリーなど東欧から持ち帰った雑貨や旅のカケラ。
ミュシャの故郷チェコを感じる、古いものや新しいもの。

http://www.charkha.net/

 

 

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  • 期間 3月12日(月) - 4月1 6日(月)
  • 場所 2号館1F 広島 蔦屋書店

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