【広島 蔦屋書店】文学のうまれるところ

フェア・展示
1号館1F 広島 蔦屋書店 2018年04月09日(月) - 05月31日(木)

文学というとらえどころのないもの

文学ってそもそもなんなのでしょうか。

(文芸コンシェルジュ 江藤)

 

定義付けることはとても難しいのですが、私は私の中にこういうものが文学だろうという、ぼんやりとしたものを持っています。

しかし、言葉にすることはとても難しい。言葉にした途端に思っていたものと違うものになってしまうのではないかという恐怖すら感じます。

 

考え方を変えてみましょう。

文学ってどこからうまれるのか。

これを探ることで、文学を知ることができるのではないか。

文学というものの見え方が変わってくるのではないか。

文学という枠組みが変わっていくのではないか。

そう思いました。

 

11のテーマを立てて根源を探ってみました。しかし結局のところ、答えなどないのです。今私がみなさんにお見せできる現時点での精一杯がここにあります。

古典から現代のもの、読みやすいもの難しいもの、面白いもの苦しいもの、できるだけバランスのいい選書というのを心がけて選びました。

それぞれの本を集めて並べて見せることで、その本の固まりにまた違った意味を与えることができていればいいのですが。


 

貧困からうまれる

富めるものと貧するもの。その原因も様々である。自らの落ち度で陥ってしまう者、生まれながらにして底にいる者。貧しさとは罪なのか、絶対的に悪なのか。恐らく、生活に余裕がありなんの不自由も感じない人間と比べると、社会、生活、隣人に対する、憎しみや嫉妬、妬みや怒りは深い。貧しい生活の底から湧き出る人間の本能的な感情を、貧しいものにもできる数少ない表現方法のひとつ、文章にして表すとそれが文学として結晶することがある。

『賭博者』 ドストエフスキー 新潮社

『にごりえ・たけくらべ』 樋口一葉 新潮社

『蛙鳴』 モー・イエン 中央公論新社

『枯木灘』 中上健次 河出書房新社

 

土地からうまれる

世界には様々な場所がある。寒いところ温かいところ、緊張感を強いられるところ、穏やかに生きられるところ。それぞれの場所はその場所でしか生まれない人間を育てる。その人間が生み出す文学はそこでしか生まれなかったものになる。例えば過去において言論が弾圧されていた土地で生まれた、言いたい放題のモンスターのような作品。現実と幻想が陸続きの作品。我々が住むこの場所でも日本語の文脈と言葉を使ってしか成立し得なかったであろう文学がうまれている。

『やし酒飲み』 エイモス・チュツオーラ  岩波書店

『青い脂』 ウラジミールソローキン 河出書房新社

『ゆらぐ玉の緒』 古井由吉 新潮社

『族長の秋』 ガルシア・マルケス 集英社

『笑いと忘却の書』 ミラン・クンデラ 集英社

『パルプ』 ブコウスキー 筑摩書房

 

宗教からうまれる

 古来宗教とはなんだったのか。人が団体で生きるためには社会が必要でそれを維持するための仕組みとしてうまれたのか。いやそのようなうがった見方は間違っていて、やはり神のようなものはあるのだろう。しかし宗教とは難儀なもので、それにより侵略が進み、人々は争い、また平穏を得て、命を懸けた。宗教を伝える為に語った物語は本となった。それらは、戦うもの、その枷の限界を試すもの、教義の奥底を探るもの、などの文学をうむことになる。

『服従』 ミシェル・ウエルベック 河出書房新社

『薔薇の名前』 ウンベルト・エーコ 東京創元社

『さかしま』 ユイスマンス 河出書房新社

『ヨブ記』 旧約聖書 岩波書店

『沈黙』 遠藤周作 新潮社

 

戦争からうまれる

生きるために、家族を守るために、本能に突き動かされて、哀しみから力を得て、憎しみと怒りが感情を突き破って、人が人を殺す。そこでは殺すことが正義となる。異常な精神状態が人を支配する。命が懸かった状態でその場にいる人達はどうなるのか。人はその異常事態を記録した、何が起きていたのか記録する必要があると思った。これはなんなのか想像力を働かせて物語を綴った。なぜ、どうして、誰もが考える。そしてそこから文学がうまれた。 

  

『虐殺器官』 伊藤計劃 早川書房

『黒い雨』 井伏鱒二 新潮社

『タイガーズワイフ』 テア・オブレヒト 新潮社

『野火』 大岡昇平 新潮社

『ブリキの太鼓』 ギュンター・グラス 集英社

 

絶望からうまれる

全て終わったと思う、もうどうしようもないと、しかしまだ生きている。そんな時に人はどうするのか。自ら命を絶つべきなのか、否、それでも生きようとするのが人間ではないのか。自分が生きていたという証の為に、出来ることのひとつとして記録を取った。現状を打破するための手段としてということとは関係無く、後世に伝えなければならないという使命感からか、自らの心の叫びを、やむにやまれず筆をとって書き記した。そしてそこに文学がうまれた。

『苦海浄土』 石牟礼道子 河出書房新社

『変身』 カフカ 新潮社

『砂の器』 松本清張 新潮社

『人間失格』 太宰治 KADOKAWA

『夜と霧』 フランクル みすず書房

 

災害からうまれる

人間ではコントロールできない大きな力によって、なんの前触れもなく突然やってくる。人は驚き慌て逃げ惑い、あるいは命を失う。助けられた者、生き残った者はその意味を探し考える。命を失った者に対して思いを馳せる。考え、想像し、思うことで文学がうまれる。純粋な自然現象から、近年では人間が関わることで、その被害の規模や巻き起こる現象が変わってきてもいる。驕り高ぶる人間への自然からの忠告なのか、その意味を人はどう読み解くべきなのか。

『想像ラジオ』 いとうせいこう 河出書房新社

『チリの地震』 H・V・クライスト  河出書房新社

『執筆過程の生理学―1994-1996』 中井久夫 みずず書房

『バラカ』 桐野夏生 集英社

 

空想からうまれる

人間の脳に備わっている思い描くという機能。食べるために、産むために、死なないために、だけに使うわけではないその機能。それは物語を作り、相手を面白がらせたり、怖がらせたり、泣かせたりもする。未来を思い描く、異世界を思い描く、現実を改変する。実行力のないその思い描くだけの機能はいったいなんのためにあるのだろうか。そのことに意味があるのか無いのか、そんなことは考えず、問わず、純粋に想像し思い描くことから誰も知らない新しい文学がうまれる。

『パラダイスモーテル』 エリック・マコーマック 東京創元社

『幽霊たち』 ポール・オースター 新潮社

『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』 村上春樹 新潮社

『第四の館』 R・A・ラファティ 国書刊行会

『皆勤の徒』 酉島伝法 東京創元社

『中二階』 ニコルソン・ベイカー 白水社

 

音楽からうまれる

それは文学に大変近しいものではないのか。しかし、現出するものは全く違うものである。リズムと節によるものと、文字によるもの。歌詞という要素を考慮に入れると境界線が曖昧になるのだが、歌詞が無くともそれは成立する。共に、人の心を震わせ、心をえぐり、傷を付けさえもするかもしれない、あるいは癒やす。それは既に文学とほぼ同じものなのかもしれない。であるとすれば、そこから文学がうまれるというのは、なんの不思議もなく必然である。

『シューマンの指』 奥泉光 講談社

『羊と鋼の森』 宮下奈都 文藝春秋

『オルフェオ』 リチャード・パワーズ 新潮社

『ジョン・ケージ著作集』 ジョン・ケージ 筑摩書房

『くっすん大黒』 町田康 文藝春秋

 

学問からうまれる

あることについて徹底的に知りたくなり、それを究めようとする人がいる。純粋にそのことに打ち込み、一切の邪念無く究めることを楽しむ人達がいる。無邪気で純粋な研究者からうまれ出る成果はそれが実用的なのか、金が儲かるのか、そんなことには関係なく極めて美しいものである。美しいものをうみ出す力を持つ人間が研究に関する文章を書くと、それが全く文学を目指していないにもかかわらず、結果として出来上がったものは、非常に美しい文学となった。

『柿の種』 寺田寅彦 岩波書店

『ろうそくの科学』 ファラデー KADOKAWA

『十二子考』 南方熊楠 岩波書店

『死者の書』 折口信夫 KADOKAWA

『不思議の国のトムキンス』 ジョージ・ガモフ 白揚社

『春宵十話』 岡潔 KADOKAWA

 

ただそこでうまれる

文学を意図して生み出す、ということもあり得る。それを目指し、ひたすら力を磨き、全力を尽くして生み出されたものが光り輝く文学となった例はいくらでもある。ただ、この世の中には、そうとは意識せずに、思うままに書いてしまったものが、誰にもなしえない高みへと上り詰めてしまう場合がある。そのテーマや舞台、主人公がたまたま揃い、とんでもないものがうまれてしまう場合もある。もしくは、ただ息を吸って吐くようにごく自然に文学をうみだしてしまう者もいる。

『楢山節考』 深沢七郎 新潮社

『あひる』 今村夏子 書肆侃侃房

『ことり』 小川洋子 朝日新聞出版

『オン・ザ・ロード』ジャック・ケルアック 河出書房新社

『火を熾す』 ジャック・ロンドン スイッチ・パブリッシング

『フラニーとゾーイー』 サリンジャー 新潮社

『大聖堂』 レイモンド・カーヴァー 中央公論新社

周辺でうまれる

中央に対する外側。メインに対するサブ。いわゆる文壇からうまれるものではない、在野からのアプローチ。または文学を作るべきではないかもしれない者がうみだす物。あるいは、紙に文字として記されず、口伝で、謡曲として伝えられた物語。それらは文学だとは思いもせず、またそれを目指していないだけにより純粋な表現としてこの世に現れる。中央で自らの地位に安穏としている偉い人にはとても作り出せない、刃をもった文学がここにうまれる。

『箱の中』 木原音瀬 講談社

『ピエール・リヴィエール 殺人・狂気・エクリチュール』 フーコー 河出書房新社

『平家物語』 古川日出男 河出書房新社

『裸のランチ』 バロウズ 河出書房新社

『自殺』 末井昭 朝日出版社

 

 

  • 期間 2018年4月9日(月) - 5月31日(木)
  • 場所 1号館1F 広島 蔦屋書店

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