広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.104

蔦屋書店・神崎のオススメペンギンの島』 アナトール・フランス著 近藤矩子訳/白水uブックス

 
 
ご存知でしょうか。
ずっと昔、ちょっとした手違いから、神によって人間に変えられたペンギンたちの国があったことを。
 
ある日、悪魔に翻弄された年老いた聖者は、ペンギンたちの島に流れ着きます。長い漂流で頭はぼんやりとし、眼は弱っていたため、この聖者はペンギンたちを未開の地の人間と思い、洗礼を施してしまいます。
さあ、天上は大騒ぎです。ペンギンへの洗礼が「有効」か「無効」かをめぐって、神を中心に聖職者や神学者たちの激しい議論が続きます。最終的に神が「形式に則った洗礼で、有効である」と判断を下し、ペンギンたちに人間となることを命ずるのです。
こうして洗礼を受けたペンギンたちは〝ペンギン人〟となり、〝ペンギン国〟という国家を築いていきます。
 
人間となったペンギンたちは衣服を身に着け、人間らしく残酷に、戦いと征服という名の殺人と略奪を繰り返しながら神話の時代から王制へ、さらに民衆の反乱から革命、共和制へと、ペンギン国として成長していくのです。
 
ノーベル賞作家でもある作者のアナトール・フランスがフランスの歴史を基に描いたペンギン人とペンギン国の物語は、さらに近代へと続きます。資本主義による経済の発展。拍車をかける工業化、貧富の格差、労働者階級の不満の爆発…。それは日本はもちろん、世界の多くの都市が辿って来た道かもしれません。
 
人々はいかに建物を高くしても、十分と思わなかった。ますます高くしていった。(中略)そして人々は地中にますます深く掘り進んで、地下室やトンネルをつくるのだった。
ペンギン国の発展は、時代の流れとともに、富の崇拝というペンギン人の欲望をさらに駆り立てます。そしてそれに反抗する力、アナーキストたちによる暴力と破壊の連鎖を生んでいくのです。これは怖いくらいに現在の世界の状況に重なり合います。
 
ペンギンの姿を借りたこの歴史物語には、人間に対する深い思いと、人間が創り上げた文明への批判、警告が込められています。
「人間とは何か」、「人間はこれまで何を成し、これから何をしなければならないのか」を考えるきっかけをくれる一冊です。
 
 

 

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