広島 蔦屋書店が選ぶ本 Vol.4

【蔦屋書店・濱野のオススメ 『注文をまちがえる料理店のつくりかた』】

現在、日本は超高齢化社会を迎えています。内閣府が発行している平成29年版高齢社会白書によると65歳以上高齢者人口は3,459万人、総人口に占める高齢者の割合が27.3%にもなりました。その中で認知症高齢者数は2012年には462万人(15.0%)。65歳以上の高齢者の約7人に1人の割合で、2025年にはさらに増え、約5人に1人になると推測されています。

 

今回ご紹介する本は新時代の認知症介護のあり方のひとつのモデルになるかもしれないものです。

 

『注文をまちがえる料理店のつくりかた』(方丈社)

というどこかで聞いたことのあるようなユーモアあふれるタイトルです。

 

2017年夏、東京六本木一丁目のレストラン「RANDY」。

ここを舞台として認知症の方がスタッフとして働く『注文をまちがえる料理店』が3日間限定でオープンしました。

このプロジェクトの発起人であり、著者の小国士朗さんは普段はテレビ局のディレクターを務めています。2012年、ドキュメンタリー番組の制作時に名古屋で介護施設を密着取材していました。そこで出会ったのが認知症介護のプロフェッショナルで『注文をまちがえる料理店』の実行委員長、和田行男さんです。

和田さんは首都圏を中心に20ヶ所以上の介護施設を統括するマネージャー。もともと国鉄の職員でしたが、JRへの民営化に伴い自分の意思で退職してしまいます。国鉄時代、障がい者が列車での旅を楽しめるようにする企画に携わっていたこともあって、介護の世界に飛び込みました。

その当時、認知症になれば多くの行動が制限されることが当たり前とされていたそうです。

施設の中に閉じ込められたり、薬物で眠らされたり、椅子やベッドに縛り付けられたり…そうした状況に強い疑問を感じた和田さんは、「人として”普通に生きる姿”を支える」介護をめざして、認知症のお年寄りたちが家庭的環境のもと、少人数で共同生活を送る「グループホーム」で先駆的な取り組みを続けてきました。和田さんの施設では、認知症であっても、自分で出来ることは自分でするのがルール。けがや事故のリスクもあります。それでも和田さんは「人間って何が素敵かって、自分の意思を行動に移せることって、どれほど素敵か。その人間にとって一番素敵なことを奪ったらあかん。できるだけそのことを守る、守り手にならなイカンと思ってる。」というのです。

 

その取材中ある事件が起きました。入居者のおじいさん、おばあさんの作る料理を小国さんはごちそうになることになります。事前に知らされていたメニューはハンバーグ。しかし出てきたのは餃子でした。

「これ、間違いですよね?」

と言いかけて小国さんはその言葉をぐっと飲みこみます。

その一言によって和田さんたちが認知症の状態の人たちと築きあげてきた“当たり前の風景”を壊してしまうような気がしたからです。

「こうしなくちゃいけない」「こうあるべき」

こういった考えがどれだけ介護の現場を窮屈に、息苦しいものにしてきたのか。なぜハンバーグと餃子の間違いぐらいにこだわっているんだと、めちゃくちゃ恥ずかしく感じたそうです。

 

「ハンバーグと餃子、どちらでもいいじゃないですか。おいしければ。」

 

その瞬間小国さんの頭の中に『注文をまちがえる料理店』というワードが頭の中に降りてきたのでした。

 

店員さんは認知症の方でハンバーグを頼んだのに、なぜか餃子が出てくる。でもお店の名前が『注文をまちがえる料理店』となっているのだから怒らない。むしろ嬉しくなっちゃうかも。

 

なんだこれ。めちゃくちゃ面白いな。絶対に見て見たい。と。

 

現在、介護の現場は人手不足が深刻な状態だといわれています。単純な介護はAIやロボットの発達によってある程度改善されていくとは思います。しかし、それで血の通った、人間らしい生活、人間としての尊厳を持ったまま死ねるのかと考えたとき疑問が残ります。

 

そのためには、介護のありかた、社会のありかたを変える必要があると、本書は訴えます。

ハンディキャップがあっても適切なサポートさえあれば、社会に参加できる。

社会が受容できるようになれば、もっと新しい価値を生み出せる。暗い介護ではなく、明るい介護も出来る。社会に参加して価値を生み出し対価を得ることができる。いろんな人々が集まってもっと面白いものを生み出せる、それに参加しよう、お金を稼ごう。

障がいを持っていようといまいとそんなものは些細なことであると笑い飛ばせる社会にもしかしたらわたしたちはできるのではないかと希望をもたせてくれます。

 

わたしが小国さんの取り組みで素晴らしいと思うところは、将来を見据えビジネスとして成り立たせようと考えて運営しているところです。今回のプロジェクトはクラウドファンディングで資金調達をされています。単に資金を集めるのではなくこのプロジェクトに賛同し、一員になってくれることに大きな意味があるとおっしゃっています。人と人とがつながりあうこと。それは、か細く、ひ弱なものかもしれません。しかし、そのつながりだけが、社会を変える大きなうねりになるのだと思います。

 

3日間の取り組みでしたが、小国さんのもとには、世界中から「わたしのまちでも『注文をまちがえる料理店』をやってみたい」と問い合わせが殺到しているようです。うねりが社会を変えようとしています。近い将来、あなたの住む街でも『注文をまちがえる料理店』がみられるかもしれません。

 

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