広島 蔦屋書店が選ぶ本 Vol.10
【蔦屋書店・藤木のオススメ 『As the Call, So the Echo』】
思わずシャッターを切りたいと思うほど日常が美しく見える瞬間があります。私にとってそれは大学への通学路、谷中という東京にある下町の、よく晴れた日の景色でした。皆さんにとってそれはなんでしょうか?
身近な人の面白い顔、旅先の綺麗な風景、美味しそうな食べ物。さまざまだと思います。そしてそれらは全て、誰かにとっての「幸福な時間」です。
儚い限りある時間だと知っているからこそ、その「一瞬」を「永遠」に引き伸ばしたくなるのだと思います。
奥山由之さんは2011年大学在学中に『Girl』で第34回写真新世紀優秀賞を受賞。若くして広告写真やファッション誌の写真、CDのジャケット写真などを多数手がけられています。
そんな奥山由之さんの新しい写真集『As the Call, So the Echo』。ある村で暮らす奥山さんの友人の家族と、その周りの人々の日々の情景を2 年にわたり撮りためたシリーズがまとめられた作品です。
ここで私はその写真集に「どういうモノが」写っているかをお話ししようとは思いません。しかしそこには確かに優しい目線があるのです。とてもさりげない、爽やかな、ささやかな感情の移ろい。
それは全人類が認める「絶対的美」みたいなもの、綺麗なイルミネーションのようなタイプの美しさではありません。会ったことも話したこともない人たちが、そのまた知らない誰かに向ける日常の中のふとした感情。そこに潜む温もりを確かに受け取っているのです。
今その写真に向き合いながら、少し自分の時間を止めてみようと思います。ぼーっと、ただその写真を見つめていると、ふとそこに写る人々の目線の先を追いかけてしまいます。走るわが子を見つめる視線。何かを見つめる子供。仲間と食事をする光景。「喜び」「悲しみ」のように完全に言語化できない、感情と感情の狭間のような表情。言葉にしえぬもの。そこに写る人々に想いを馳せて、言葉にできない想いを想像する。それこそが尊い時間です。
ある人の一瞬を切り取った写真に、掻き立てられる想像力。不思議なことに自分もまた、そこから彼らの感情を受け取るような気がします。
そういう向き合い方も、あるんです。人との、自分との。さりげなくささやかな何かを感じているこの瞬間、私はとても、幸福です。
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