広島 蔦屋書店が選ぶ本 Vol.9

【蔦屋書店・犬丸のオススメ 『てんまると家族絵日記1』『伊藤潤二の猫日記よん&むー』】

 

「石黒亜矢子さんのコーナーを作るなら、この本がないのはありえませんよ。その隣にはこの本を並べなければ。これは名著ですよ。これは、名著なんですよ。」

いつも冷静なUさんは、こと猫の話になるといつもよりテンションが高めだ。

『おおきなねことちいさなねこ』『ばけねこぞろぞろ』などの絵本作家である石黒亜矢子さんと、『サイレンの村』『闇の声』などのホラー漫画家の伊藤潤二さんご夫婦が、それぞれに飼い猫との日常を描いている。

わたしの隣でUさんの力説は、まだ続いている。この2冊は合わせて読むのがいいのですよと、いつになくグイグイと推してくる。もはや洗脳だ。

その洗脳を神の啓示のように受け取ったわたしは、この2冊をゲラゲラ笑い転げながら読み終え、すぐさま原稿を書いている。

石黒亜矢子さんは、生粋の猫好きで『てんまると家族絵日記』は、猫好きなら誰でも「あるある」と言ってしまう日常がゆるい画とともにつづられている。もちろんご主人の伊藤潤二さんも出てくる。2人のお嬢さんとてんまるとの掛け合いもとても微笑ましい。

一方、『伊藤潤二の猫日記よん&むー』は、緻密な画風のホラー漫画家・伊藤潤二さんが、猫との生活をギャグタッチで描いている。そのギャップも笑える要素なのだ。

伊藤さんは、どちらかといえば犬派だったが、石黒さんとの生活が始まるとともに猫との生活も始まる。猫をよく知らない人が猫に溺れいていく「あるある」で、猫が得意でない人にはこう見えるのだろうな、わかる。

猫があまり好きではない人の話を聞くと「猫はヌルーンと伸びるよね…」とか「無表情でこっちを見ている…」と恐ろしそうに言うが、猫好きからしてみればそこもたまらないところで、猫が伸びていたら「くそー、もっと伸ばしてやるぞー」と撫でてみたり、じっとこちらを見ていれば「なんだよー、こっちみてぇ。かわいいやつめ、だっこか?」とだっこしようとしてかわされ、身もだえしたりする。

伊藤潤二さんの『よん&むー』でも、伊藤さんは猫と生活するうちにどんどん骨抜きにされ、2匹とも自分より石黒さんを選ぶと、それこそ身もだえして悔しくなる。これも一緒に生活するもの同士の「あるある」だ。一緒に生活するもの、猫に好かれたほうが全ての実権を握るのだ。

2冊を一気に読み切って、これはまずいことになったと思った。これでは、Uさんの思うつぼだ。てんまるの続きが読みたい。てんまると家族絵日記は石黒さんのツイッターで定期的にアップされていて、本書はそれをまとめた豆本だ。ツイッターも毎回チェックを欠かさないが、それも最近のことだしやはり本になるとページをめくる楽しさがある。すでにてんまるのかわいさにやられていて、2巻以降に出てくるであろう、とんいちも気になる。(ツイッターでは、てんまるととんいちの2匹の写真がアップされている。)

多分、明日、わたしは石黒さんの棚から少し距離を置いてスックと立ち、てんまると家族絵日記の2から4巻に狙いを定める。少し考えるふりをしながらその3冊を手早く抜き取りレジに走るのだ。これは、洗脳されたのではない。自らの意志で買うのだと自分に言い聞かせながら。

そんなソワソワとした行動をとると、なぜかいつもUさんに見つかってしまう。背後から冷静な声で「何してるんですか」と言われると、なんだか盗み食いを見つかった猫のような気分になって「いえ、食べてません」と言いながら走り去るのだ。

 

『てんまると家族絵日記2・3・4』

やはり、次の日、『てんまると家族絵日記』を全巻そろえた。嬉しい気分になったわたしは、この5冊を並べて写真を撮ったりしてから、次の休みまで表紙のてんまるたちを撫でまわした。

2・3・4巻と石黒さん家族が成長していく。てんまるにはとんいちなる弟が出来、お嬢さん2人も年を重ねている。『よん&むー』に出てくるむうやんも石黒さんの実家で半ノラの野良五郎と元気に暮らしている。

“J”こと伊藤潤二さんもたまに出てくるが、たいてい猫におやつをせびられては石黒さんに「あげてはだめだよ」と言われている。(石黒さんは後でこっそりとあげているというのに。) 伊藤さんは、「そうか」と納得して去っていくのだが、扉の向こうで「おやつをあげたいよー」と、身もだえしているのではないかと妄想してしまう。これも、『よん&むー』を合わせて読んだからだろう。

石黒さんのツイッターで、『てんまると家族絵日記』は続いている。5巻がでるのは夏ごろだろうか。待ち遠しい。

 

■石黒亜矢子(いしぐろあやこ)

1973年生まれ。絵描き。妖怪や創造の生き物、動物を描く。

主な仕事は、絵本や装丁画、挿絵など。(HPより)

 

■伊藤潤二(いとうじゅんじ)

1963年生まれ。ホラー漫画家。代表作は『富江』シリーズ、『うずまき』、『首吊り気球』、『ミミの怪談』など。映像化された作品も多い。

2006年に石黒亜矢子と結婚。

 

Vol.8蔦屋書店・江藤のオススメ 『半分世界』】

Vol.7蔦屋書店・村上のオススメ 『ぼくの鳥の巣絵日記』】

Vol.6蔦屋書店・中渡瀬のオススメ 『骨を彩る』】

Vol.5蔦屋書店・犬丸のオススメ 『奇妙な菌類~ミクロ世界の生存戦略~』】

Vol.4蔦屋書店・濱野のオススメ 『注文をまちがえる料理店のつくりかた』】

Vol.3 蔦屋書店・丑番のオススメ 『SMに市民権を与えたのは私です』】

【Vol.2 蔦屋書店・江藤のオススメ 『勉強の哲学』】

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