広島 蔦屋書店が選ぶ本 Vol.6

【蔦屋書店・中渡瀬のオススメ 『骨を彩る

 

タイトルの響きと装丁の美しさに惹かれて手に取ったこの一冊は、前を向いて進んでいくべく、私たちにそっと優しく寄り添ってくれる本でした。

 

五つの物語からなる短編集です。妻、母に先立たれた父子の心の有りようや、様々な関係性の中で、欠けた部分を埋めようと手探りで生きる人たちの心情が、とても丁寧に描かれています。

 

人が亡くなることを「一人の人間の顔が無くなるということ」と書き、気持ちを分かち合えたことを「目に映るものを消化するための反射板の役割を果たしてくれた」と語らせる彩瀬さん。

 

「死」を扱う軽くはない内容なのに沈んだ気持ちにならず、むしろ、とてもきれいな世界のお話を読んでいるように感じるのは、紡がれた言葉が美しいからなのでしょう。

 

気持ちを掘り下げて向き合う中で探り当てられたであろう繊細な描写が、私たちの心を澄んだものにしてくれるのだと思います。

 

その人を成す芯の部分。真ん中にあるもの。曰く「骨」。抱えているものや背負っているものは人によって違い、質や色、形状もさまざまです。

 

物語に出てくる女の子は、3歳の時に母親を亡くし、今は中学生。多感な時期を迎えています。母親がいないということを哀れまれたくない。周りに気を遣われるのも、遣わせるのもしんどい。「自分の骨を蝕んでいる黒いしみ」に気付き、苦しみもがきます。彼女の心の叫びを聞いて胸がキュッと詰まります。

 

でも、いつだって骨は再生します。欠けたら補い、しみは塗り消して色を足していけばいい。「やわらかい骨」に、たくさんの温かい言葉やきれいなものを染み込ませて、強くして、それを支えに生きていく―。この営みが「骨を彩る」ということなんですね。瑞々しく希望に満ちた表現が素敵すぎて、ため息が出てしまいました。

 

色彩を帯び始めた人生を祝福するように銀杏の葉が舞う表紙を改めて眺めます。しばらくの間、「音もなく降り注いだ黄金色の雨」の余韻に浸っていたくなります。

 

 

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