広島 蔦屋書店が選ぶ本 Vol.5

【蔦屋書店・犬丸のオススメ 『奇妙な菌類~ミクロ世界の生存戦略~』】

 

「ねーねー、何 読んでんの?」

「キンだよー」

「キン?」

「そう、ほらぁ。きのことかカビとか…」

「ああ、菌ね。それ、面白い?」

「面白いよー!あのね、菌ってさ昆虫に寄生してね…」

「わかった。わかった。じゃーねー」

 

どうやら、わたしは読書をしているときにニヤニヤと悪い顔をしているらしい。何を読んでいるかと聞いてきた人達も明らかに「また、変な本を読んでいるな」という顔つきだ。ならば、この場をお借りして紹介してしまおう。

 

この本の前書きにもあるが、菌と聞いて思いつくのは何だろうか?シイタケ、イースト、納豆、はたまた悩みどころの黒カビや病原菌だろうか。

わたしたちが日常「菌類」と呼んでいるこれらの生き物は、いずれも微生物であるという点では共通しているが、生物学的には全く別の種類であるらしい。これらは「真菌(しんきん)」と「細菌」、「ウイルス」の3つのグループに分かれ、シイタケ、黒カビ、イーストは真菌、納豆菌は細菌、病原菌と呼ばれる多くのものは細菌やウイルスになるらしい。

本書はこの中の「真菌」を取り上げている。

この真菌が凄いのだ。

まず、この真菌と分類される生き物。細胞内に核を有する真核生物としての菌類、すなわち核をもたない細菌や自前の細胞すらないウイルスと比べて、細胞学的にも進化学的にもはるかに我々人類に近いというのだ。

我々に近い…これだけでもわたしの頭の中では擬人化された真菌を妄想しニヤニヤするのだが、どうもわからない。

シイタケ、黒カビ、イースト、全然形や大きさも違うこれら「真菌」が、なぜ同じグループに収まるのか。わたしのような菌初心者にも、本書の前半で菌類の基本から教えてくれる。

 

それは、きのこやカビ、酵母など身近な菌の話から始まるのだが、わずか20ページあたりで自由すぎるとでも言うべきか変幻自在な菌のふるまいを知ることになる。

植物との共生なんてかわいいもので、花に擬態したり、罠だってつくる。

もう、なんだってありだ。心の中では「えーーーー!?」の連発だ。

 

この、菌愛に満ちた著者はいったい何者なのだ。

著者は、白水 貴(しろうず たかし)さん。1981年、和歌山県生まれ。2008年、筑波大学大学院生命環境科学研究科博士課程終了。

博士(理学)。国立科学博物館・日本学術振興会特別研究員PD。菌類の多様性や生態を研究。珍奇な菌類の日本一を決める「日本珍菌賞」主催とある。

どうやら白水さんは、アカキクラゲ類というグループを対象に研究をされているらしい。

このアカキクラゲ類の子実体(きのこ)は、オレンジ色や黄色など鮮やかで森の宝石と呼ぶに値するだけの美しさがあるというのだ。

これらアカキクラゲ類は「木材腐朽菌」に属し、菌類の中でも特に強力な有機物の分解者だという。

木材を分解する森の掃除屋さんといったところだろうか。

サイトを検索する。「白水の穴」なるものを発見。

数々の研究、業績、日本産アカキクラゲ類オンライン図鑑、そして自らが滝に打たれる写真。

ツイッターを探る。

ツイート数1.4万。菌のつぶやきに溢れている。ヘッダーの写真もなんだかとても楽しそうだ。

 

そして、この本は菌類と人類の未来の話へ行き着く。

わたしたち人類に悪さをするものもいるが、それはたまたまの相性で、多種多様な菌類の個性がもっと解ればスギ花粉の抑制や微生物農業など多方面で菌類が活躍する日も近いかもしれないのだ。

もし、白水さんにお会いすることが出来たのなら、一晩中でも菌の話をお聞きしたい。もちろんわたしはにわかなので、「へーー」とか「おーー」とかの相槌しか打てないが、少年のようなまなざしで菌の話を貪りながら、心の中ではおなじみのメロディーで、

♪ウイルスだって 細菌だって 真菌だって みんなみんな生きているんだ友達なんだー♪

とリフレインするのだ。

 

読書。本のページをめくるときわたしはとても自由だ。

そこには、ありとあらゆる世界が溢れている。

ミクロの世界を覗くこともできるし、宇宙の果てに思いをめぐらし、野生動物の雄大さにうっとりとする。

現実世界では出会えないような人にも、出会える。

そして、今日もページをめくるのだ。

 

「ねーねー、次は何 読んでんの?」

「ぐふふ…変態サックス奏者のね…」

「変態?変態が出てくんの?」

 

 

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