広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.105

蔦屋書店・丑番のオススメ『聖なるズー』 濱野 ちひろ著 集英社

 

 

たった1冊の本に世界の見方を変えられることがある。たった1冊の本に自分の価値観を覆されることがある。

 

 

例えば、坂口恭平の『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(角川文庫)。都市には豊かな幸が実っていると見立てて、この社会を読み解いていく本だ。確かに!なるほど!と膝を叩きながら読み終えた後に、街を歩くと、いままで見えなかったものが見えてくる。それはこれまで存在していなかったものではない。街を眺める新たな視点を手に入れたことで、世界の見方が変えられたのだ。

 

 

今回紹介するのは第17回開高健ノンフィクション賞を受賞した『聖なるズー』。

 

 

2019年最も衝撃を受けた本だ。ページをめくる手が止まらず、1日で読み終えた。ただ、よくある一気読みの本とは違って、読み終えてから1ヶ月経つがその本の内容が頭のどこかに引っかかっている。

 

 

この本を読むことで自分の頑なとも言ってもいい価値観を再認識させられた。価値観を覆されたのではなく、自分の内面化している価値観をあぶり出された。強固に内面化された規範を。ただ、この本はいまもその規範に揺さぶりをかけ続けてきている。

 

 

読み手を選ぶ本である。

内容は動物性愛。犬や馬をパートナーにする動物性愛者「ズー」に取材したノンフィクションである。動物との間に「愛」が存在しその先に「性」があるという「ズー」たち。虐待ではないかという声もある。著者は「ズー」からの信頼を得て、寝食をともにすることで、彼らの本音を拾い上げていく。

 

 

興味本位に書かれた本ではない。とても真摯で誠実なものだ。

このノンフィクションは著者の体験から書き出されている。パートナーから受けたDV。そしてそれから逃れるためにそのパートナーと結婚をし、そして離婚をしたという経験。凄惨な性の体験とそれを経て「性とは何なのか」を改めて問い直したいという著者の思い。

 

 

この本は性についての自らの規範をあぶり出され、揺さぶられる恐ろしい本である。

 
 

 

 

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