【5周年】19人のコンシェルジュ 小林[古書]
私と本、私と梅田 蔦屋書店
本とは、ですか。そうですね、まず僕のサブカル的人格形成に大きく影響したと今更ながら思い当たるのは、1970年代に小学館から出ていた『なぜなに学習図鑑シリーズ』ですね。学習図鑑といいながら、いま各社から出ているものとは全然違うんですよ。
-今けっこう高値で取り引きされているようですが。
普通に動物や昆虫がテーマの巻もあるんですけど、ウルトラマンやセブンの怪獣ばかりの巻や破滅型未来の予想図が恐怖を煽る巻とか、空飛ぶ円盤とか手品とか、とにかく大阪万博だ高度成長期だと浮かれ気味だった時代に生まれた小学生の知的好奇心をわしづかみにする内容のものがほとんどで、学習図鑑という体裁をとりながら、その実おもしろおかしいというかビックリドッキリな内容ばかり。
-まだまだ未確認生物の存在などが信じられていた時代ですね。
でもそのおかげで色々なことに興味を持つようになったのは確かですね。今でも『いろんなことをよく知ってますねえ』って半分呆れ気味に感心されることがあったりしますけど、明らかに人格形成の根っこがこの頃にあります。それと岩波のドリトル先生シリーズ。どの巻も『読み進めるのが惜しい』初の読書体験でしたね。
-井伏鱒二の名訳ですね
その後の読書における第二次性徴期は、親から与えられた集英社版世界文学全集と、中学から高校にかけて自分で買うようになった星新一や筒井康隆、畑正憲といった文庫本ですね。文庫とは思えない個性的な装丁が多く、紙質や造りも好みだった角川文庫が特に好きでした。
-その後に横溝正史やクイーンを集めだす、と
本好きにも、読めればいいという人とコレクターとに大別できると思うんですが、今の世のなか読むだけならネットから無料で手に入れられたりもするじゃないですか。でも僕はやっぱりモノとしての本が好きなんですね。よく著者が後書きなどで『ずっとあこがれていた○○さんにやっと装丁してもらえて嬉しい』とか書いていたり、なかには自身でカバーをデザインする方もいますよね。そういう著者の思いを映し出しているというか、作品の世界観を具現化している外装部分を抜きにすると、味わいが違うものになると思うんです。
-ジャケ買いというのはありますよね
音楽だってレコード時代に発表されたアルバムならLPで聴くのが正しい、と。だってB面の一曲目って大事なポジションなのに、それすら意識せず聴くなんてやっぱりおかしいですよ(怒)。それにジャケットにはアーティストのこだわりがあるわけでしょう。中身だけダウンロードするなんて許さないとは言いませんけど、別物だということですね。
-文庫やペーパーバックには独特の魅力もありますが
オリジナル至上主義というわけではないんです。文庫になってからのほうがいいデザインだと思うものもあります。でも帯はついていてほしい(笑)。
だから必然的に古書店へ足が向かうことになる。ずいぶん前から新刊書籍と古書の購買比率が逆転したんですが、これも歳のせいですかね(嘆)
-確かに古書は安いこともあって、加速度的に増える傾向にある
なんだか話が逸れっぱなしですけど、つまり僕はテキストだけではなくて造本・装丁を含めた『モノ』としての本が好きなんですね。
梅田 蔦屋書店の5年間
古書売場ってもともとガーデンラウンジの内側だけだったんです。その後に4thラウンジの壁面を使えるようになったんですけど、いかんせんイベント開催時には立入禁止(苦笑)。特に週末はイベントぎっしりだから開店休業状態(泣)。でも昨年末からステージ脇に3ラックですが場所ができたので、そこでミステリとSFの専門古書店として有名なジグソーハウスさんと古書店巡りの達人であり著書も多い小山力也さんにご協力いただいて、なかなか面白い棚ができました。
-まさにコレクター向けの棚、というかコレクターの本棚自体を見ているようですね
幸いというかこの3ラックはお客様にも好評のようで、動きがいいんですよ。やっぱり場所は大事(鼻息)。ガーデンラウンジ内側もけっこう面白いものが集まってきたんですが、カフェ席が隣接していてゆっくり見るのが難しい。今も最大の課題です。
梅田 蔦屋書店を代表する古書
装丁の力を感じるものをいくつか挙げてみました。特に全盛期の角川文庫は凄まじいです。現在の文庫はどれも画一化された造りですが、当時の角川文庫は単行本となんら変わらないデザインです。
-カバー裏面まで絵や写真が回り込んでいたり、背までデザインされています。
サンリオSF文庫のデザインも秀逸なものが多い。今ハヤカワや創元で読めるタイトルでも、手に入れることでの満足感が違うんです。古書はみな一点ものなので、コンディションを含めると同じものはひとつとしてありません。こんなにネットでの購入が不向きな、逆に言えば実店舗での購入が適した商品も少ないんじゃないですか。ぜひ店頭で手に取っていただきたいです。
全盛期の角川文庫他
私を代表する一冊
書籍名:『夏への扉』
著者:ロバート・A・ハインライン 出版社:早川書房
著者:ロバート・A・ハインライン 出版社:早川書房
けっこうベタだと思われるんですが、ハインラインの『夏への扉』ですね。最初に読んだのは高校生の頃ですが、これまで5回は読みました。この本を読んでSFの素晴らしさを実感したと言えますし、単純にエンタテインメントとして高いレベルでまとまっていると思います。
-猫好きにもおすすめですよね。
こういう仕事をしていながら、僕は書評というのをあんまり鵜呑みにしないんですよ。これまでどんな本を読んできて、どんな作家のどんな作品が好きなのかもわからない人に『これがイイ』って言われても、こっちの好みも知らないのに、って思ってしまう。かつて『本の雑誌』の黎明期というか発売予定日になってもいっこうに本屋に並ばなかった頃、椎名誠さんやめぐろこおじさん、内藤陳さんのあげる本をやたらめったら読んでいた頃はありましたが、そういうのは特別ですね。でもこの本は15歳くらいに読むのが一番いいと、僕は思います。これから初めて読む人がうらやましいくらい、ってすすめてますね(笑)
コンシェルジュプロフィール
1964年大阪生まれ。牡羊座のO型。コレクター気質は本や雑誌のみにとどまらず、旅行好きで買い物好きが災いし、レコード、手ぬぐい、カメラ、ミニカー、ケナー社のスターウォーズフィギュア(当時もの)、マルサン・ブルマァクのソフビ(当時もの)、フレンチキーホルダー、ピンズ、レゴ、民芸玩具などなど、ウォーキングクローゼットのはずだった小部屋はこれらで溢れ、奥さんも諦めの境地に至る。
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