include file not found:TS_style_custom.html

広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.356『カッパのカーティと祟りどもの愛 1』宮崎夏次系/マガジンハウス

蔦屋書店・犬丸のオススメ『カッパのカーティと祟りどもの愛 1』宮崎夏次系/マガジンハウス
 
 
前作『あなたはブンちゃんの恋』は、夏次系さん初の長編ラブストーリーだった。と、いえど、やはりそこは夏次系さんらしい一筋縄ではいかないラブストーリーで…。
傍からみるとかなりややこしいのだけれど、主人公のブンちゃんはただ「好き」にまっすぐで、まっすぐだからこそ傍からは衝撃的な行動に映ってしまう。一途な思いから、猪突猛進、爆走するブンちゃんにハラハラしつつ、その行動すべてが愛おしくて笑ってしまうのだ。この恋、どうするんだよ!と。
 
完結してから待っていた、待ち遠しかった新作『カッパのカーティと祟りどもの愛 1』。
「カッパ」とか「祟りども」とか、ちょっと不穏な響きも夏次系さんらしいなと期待が高まる。表紙カバー絵の謎のキャラクターたちからも、「ああ、なんかヤバそう」がプンプンと匂ってきてニヤニヤしてしまう。
 
主人公の、口酒 祝(くちさけ いわい)は幼いころから笑顔に強いコンプレックスがある。彼女の笑った顔は化け物みたいに不気味だと周囲から避けられてしまうのだ。そのため一人も友達ができず大人になる。唯一といえる理解者の祖父がこの世を去ってしまい、悲しむ彼女の前に、関西弁の幼いカッパが現れる。このカッパもまた何らかの事情からひとりぼっちだった。うまくコミュニティに馴染めない、はみだしてしまった二人が出会ってから、不思議な出来事が起こり始める。その出来事から出会いが少しずつ重なっていく。
 
今回の主人公の祝ちゃん。人前で笑うことができない。笑うことは感情の一部でもあるので、それができないことは、そうとうの苦痛だろう。人前ではおもしろそうなことから距離を置いて過ごさなければいけなくなる。さらに、笑顔は人の印象をよくするためのポジティブなものであることが多い。微笑みさえ使えないとなると、暗い、かわいくないなどの悪い印象も与えてしまう。だが、笑えば周囲が怖がる。これは辛い。子供の心理では、それを理解し受け入れ友達になるなんてことはできないだろう。祝ちゃん、今まで多くの事をあきらめてきたのだろうな。うまくいかない人生だけれど、心根は純真で、周りが見えなくなってしまうくらいの熱さがある。すでにそんな祝ちゃんのことがめちゃくちゃ好きになってしまっている。
今回も長編になるのかな…と、嬉しく思いつつ、笑うことが祝ちゃんにとって特別なことではなく矯正するのでもなく、今のまま受け入れてくれる人に囲まれてほしい。そんな穏やかな出会いがあってほしいと願うのだが、きっと今回のストーリーも予測不能さにドキリっとさせられながら突っ走っていくのだろう。
 
夏次系さんの作品といえば、現代のことを描いているけれど夢の中のような境界の曖昧さと、主人公が真剣である場面でこそ笑ってしまうユーモアの絶妙さ。繊細だがゆるさを残すキャラクター達と細かく描き込まれた背景。陰影のカッコよさ。ストーリーを追う動と、ひとコマを見つめる静を楽しめる。などなど、魅力満載だ。
まだ新作を読んでない方も、夏次系さんを知らない方にもぜひ手に取ってほしい。
 
気に入っていただけたなら、ぜひ他の作品も読んでいただきたい。どれからでもいい。ハマった人は、後は沼に落ちるだけだから。
作画をもっと楽しみたい方には、画集をお勧めしたい。特に『宮崎夏次系 CHRONICLE of DREAMS いままでの全部』は、夏次系さんのアトリエの写真やデビュー前の作品も掲載されている。貴重な一冊だ。
 
推しているものは、本当は手渡しで、一人ずつ、口頭で、力説させていただきたい。
これが、今、わたしのなかで流行っているアナログ式推し活で意外と効果があるのだ。
 
 
 

SHARE

一覧に戻る