広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.157
「英国男性のファッションは第二次世界大戦以降、どの様な理由で、どの様に変化して来たか」
という問いに対して事細かに記述された原書『TODAY THERE ARE NO GENTLEMAN』の復刊邦訳となる本書は(タイトルにある通り)、ファッションは勿論の事、イギリスを中心としたカルチャー史とその興亡についても大いに学ぶ事が出来、存分に知的好奇心を満たしてくれる。
「服装」という(それこそ)文字通り人間の表層的な部分の成り立ちには、これ程までに多様な要因があったのだという知られざる背景からは、決して小さくない驚きがもたらされるだろう。
著者であるNik Cohn(Nickと書かれる事もある)はイギリス/ロンドン生まれ(育ったのは北アイルランド/ロンドンデリー)で『サタデー・ナイト・フィーバー』の原案となった記事の書き手として有名な評論家であるが、特にこの『TODAY THERE ARE NO GENTLEMAN』は男性ファッション関連書の名著とされており、ヴィンテージ本市場に於いてはその原書が最低でも10万円以上の価格でやり取りされているとの事である。
また邦訳に際して解説文を寄せているのが、これまた男性ファッション関連書の優れた作品として名高い『AMETORA』の著者であるW. David Marxだ(その文の中では彼と『TODAY THERE ARE NO GENTLEMAN』との、素敵な出会いのストーリーをも垣間見る事が出来る)。
1900年代をメインとして時系列順に、各時代(世代)で起こるファッションの隆盛を追う形式となっている本文であるが、特に興味をそそられるのが「人」や「店」といった、いわゆる固有名詞的存在に関する記述が非常に多く、またそれが詳細になされている点だ。
冒頭でも述べた通り、本書はイギリスを中心とした(ファッションを含めた)カルチャーを大いに学ぶ事が出来る内容となっているが、何もカルチャーは自然に発生する訳ではなく、当然そこには人の存在があるはずであり、そうした意味でこの「人」に関する記録の数々は本書の内容を重厚かつ豊かにしてくれている。
脈々と受け継がれて来た英国ファッションの歴史を(ピンポイントで局所的にではなく)物語として読み進める事が出来る体験は、何とも味わい深かった。
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