広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.153

蔦屋書店・神崎のオススメ『砂漠が街に入りこんだ日』 グカ・ハン著 原正人訳/リトルモア
 
 
本をそれほど読まない、本を読むのがあまり好きではない人も、きっとサラッと読み終えるだろう。面白い、いや、面白いという表現は少し違うかもしれない。読み進めるうちにどんどん引き込まれていく。
 
作者はフランス在住の韓国人、グカ・ハン。
彼女が母国語ではなく、フランス語で初めて書いた小説、作家としてのデビュー作が『砂漠が街に入りこんだ日』だ。
 
作品は現実と幻想が入り混じる八つの物語から成る。それぞれが独立した物語でもあり、大きな一つの物語の八つの章のようでもある。それぞれの物語の主人公を通して感じるのは、孤立感と疎外感だ。
 
最初の物語の舞台は架空の大都市「ルオエス」。主人公の“私”が目にしたのは無機質な街と無関心な人々。
 
砂漠がどうやって街に入りこんだのか誰も知らない。とにかく、以前その街は砂漠ではなかった。
砂漠はいつやってきたのだろう?
 
砂漠とはなんだろう。
ルオエスの街に広がっているのは砂ではない。広がっているのは、もしかすると砂よりももっと厄介なもの。砂漠のような乾いた都会と人々の心。
現在の日本も似ているかもしれない。人は下を向き、周りを気にすることなく手の中のスマホの画面に没頭している。「東京砂漠」という歌がある。1976年のヒット曲だ。そのときにはもう、街や人の心の砂漠化は始まっていたのだろうか。
 
八つの物語の主人公はみな、何かに違和感をおぼえ、その何かに同化することができずにいる。孤立と疎外感を抱えて生きている。
 
最後の物語「放火狂」。主人公のホームレスは「もう二度と日が昇ることはないとでもいうかのように」あるスペクタクルを実行する。それはまるで復讐。
 
『砂漠が街に入りこんだ日』を二度、三度と繰り返し読むうち、自分の中の孤立感や疎外感に気づかされる。もしかしたら隠れている(或いは隠している)砂漠のような乾いた心も見つけるかもしれない。
 
まずは一度、読んでほしい。きっとグカ・ハンの、彼女が描く世界の虜になるはずだ。
 
 
 
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