広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.136

蔦屋書店・竺原のオススメ『メイドの手帖』ステファニー・ランド   村井理子訳/双葉社
 
 
この本を読む事は、決して楽しむ為の読書体験にはならないだろう。
 
本作の著者であるステファニー・ランドは、28歳の誕生日に予期せず自分が妊娠している事に気付く。
子どもの父親は当時のパートナーである事は間違いない。
彼に事実を打ち明けた途端、それまでの態度は一変し、中絶する事を迫られる。
それを拒否した後、彼から精神/身体へのDVを受け始める事となり、ステファニーは自分と、出産後に親権を勝ち取った娘/ミアとの2人で生きて行く事を決意する。
 
しかし職がなく、生活する事が出来ないステファニーは自身の両親(既に離婚しており、その後共に新しいパートナーと暮らしている)を頼るが、快く受け容れてくれる事はなく、その関係性は崩壊してしまう。
 
舞台であるアメリカには様々な福祉制度があるが、ステファニーには7種類の政府援助が必要だった。
ペル・グラント(低所得層学生のための奨学金)/SNAP(補助的栄養支援プログラム)/TBRA(賃貸住宅補助プログラム)/LIHEAP(低所得層の為の光熱費援助プログラム)/WIC(婦人児童向け栄養強化計画)/メディケイド(低所得者向け医療費補助制度)/児童養護、といった具合に。
それぞれの制度は非常に煩雑であり、また申請が承認されたとしても少しの収入増で補助が打ち切られ(または減額され)てしまう為、自立しようと頑張れば頑張る程、当座の生活の首を絞めてしまう格好になる。
またこの制度を巡る社会の眼差しもシビアである。
上述のSNAPの一環である「フードスタンプ(政府より支給される食糧の無料クーポン)」を利用してスーパーマーケットで買い物をするには、キャッシャーでその券面を提示する必要があるのだが、その光景を見た通りすがりの人から「気にしなくて良いぞ!」等と大声でからかわれるのだ。
 
こうしたパートナーからのDV/両親からの否定/周囲からの圧力を受け「頼れるのは自分だけ」だと改めて痛感したステファニーがようやく手にした職業は「メイド(掃除婦)」。
彼女は幼い頃のお手伝いで、母親にその出来栄えを褒められた「掃除」という仕事を通してその目に映る多くの事を綴り、それをブログへと掲載して行く。
この事が、彼女の人生を少しずつ変えて行く事になる。
 
自身の男性との遍歴/ DVを受けて来た事/ホームレスシェルターで暮らした事実等々、ステファニーの告白は実に赤裸々であるが、その告白(またはその告白を「出来た事」)は彼女が持つ強さを現している。
 
「もしこの物語(ステファニー)が自分の母親の回顧録だったら」と思いながら読めば、とても他人事とは感じられないのではないだろうか。
また他人事でなかったかも知れない可能性は誰にでもあったのだと考えると、少し不思議な気持ちさえ抱いてしまう。
 
全編を通じて村井理子氏の翻訳に愛を感じる本作の原書は、バラク・オバマ前アメリカ合衆国大統領の2019年サマーリーディングリストと年間推薦図書にも選出されている。
 
 
 
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