広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.116

蔦屋書店・神崎のオススメ『若きウェルテルの悩み』 ゲーテ著 高橋義孝訳/新潮文庫

 

 

恋の話をしましょうか。
初恋を憶えていますか。それは楽しい思い出ですか、それともほろ苦い思い出でしょうか。うまくいきましたか。よく「初恋は成就しない」と言います。きっと、若すぎて不器用だからかもしれませんね。
 
『若きウェルテルの悩み』は、ある若者の悲しい恋の話です。ドイツの文豪ゲーテによって200年以上も前に発表された小説ですが、現代に置き換えても違和感はありません。誰かを好きになる心は、時間が流れ、時代が変わっても変わらないようです。
 
ウェルテルは内省的で、感受性が強い青年でした。ある日、舞踏会でロッテという女性に出会い、夢中になってしまいます。ウェルテルの恋は順調でしたが、ひとつ大きな問題がありました。ロッテにはアルベルトという婚約者がいたのです。
仕事で遠くへ行っていたアルベルトがロッテの元に戻ってくると、ウェルテルの精神は乱れ始めます。求めても決して得ることができない、手に入れることができないロッテを思う心は、どんどん追い詰められていきます。もはや耐えることのできないロッテへの恋の苦しさから逃れるためにウェルテルが選んだのは、あまりにも悲しい、取り返しのつかない行動でした。
 
この結末は、当時の社会に衝撃を与えました。次々とウェルテルを真似る若者が現れ、いくつかの国でこの小説は発禁処分になったそうです。
 
ウェルテルの恋を通して描かれているのは、若さがもたらした悲劇です。
若さは、ある一時期だけ、ひとに与えられた大きな素晴らしい力です。でも諸刃なのです。ひたすら前へ突き進もうとするその力は、制御できなければ、ウェルテルのように自身へ向かい、自らを傷つけてしまいます。
ひとは、若さをコントロールすることを覚えて大人になっていくのかもしれません。
 
ゲーテは晩年、こう語ったそうです。
「もし生涯に『ウェルテル』が自分のために書かれたと感じるような時期がないなら、その人は不幸だ」と。

 

 

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