広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.114

蔦屋書店・犬丸のオススメ『パンダ探偵社 1』澤江ポンプ 著/リイド社

 

 

もし、生まれ変わったらなにがいい?

こんな他愛もない会話。どんな流れからかはもう思いだせないけれども、一度はしたことがあるでしょう。

でも、本当に他の生物に変わってしまったら。

 

身体が、動植物に徐々に変わってしまう不治の病、「変身病」。個人差はあるが変化は末端から始まり中核へと移行。最終的には人格が失われ完全に別の生物へと変容してしまう。主人公の半田さんも罹患し、顔のあたりに、ほんの少し変身病の症状が出ている。少しパンダ化してしまった半田さんの顔がとてもよくてと、言ったら気の毒だけれど、特に頭の、パンダ耳ができそうな、フワッと丸くなった毛の部分を触ってみたくなる。

彼は今、竹林探偵社で竹林さんの助手をしている。探偵社に来る依頼は、どれも変身病に関わること。

 

身体が徐々に変化していくこと。それは病気が進行してしまっていることを、罹患者自身が確実に実感してしまう。動植物に近づくにつれて、今までなかった身体感覚や感情が芽生えることに、不安や恐ろしさを抱えながら、治療のない病気を受け入れていかなければならない。

 

そして、ついには身体も心も完全に変身し、人ではなくなる。

 

あたりまえすぎて疑ったこともないことが揺らぐ、否定されていく。しかも、何年もかけて徐々に。少しずつ変身していく身体を見つめながら、今まで通りの生活ができなくなっていくことへ葛藤と覚悟。登場人物の多くも、今まで通りの生活が、うまくいっているわけではなかった。完全に変身して人格もなくし全てを忘れてしまいたいと思うときだってあるだろう。

だけれども、完全に別の生物になるぎりぎりまで、きっと人であることにしがみつく。言葉を失いたくはないのだ。思考することを奪われたくはない。

どうしようもなく思い悩まされる言葉だが、救われるのもまた言葉だ。

だからこそ、人でなくなるこの変身病が、とても辛く切ない病気に感じるのだ。

 

『パンダ探偵社』は繊細な絵のタッチとストーリーが、とても合っているコミックだ。動物の絵もとても素敵で、ギガンテウスオオツノシカが出てきたときは、これが描きたいために、このストーリーを考えたのではと、疑ってしまうくらいだ。

 

どのストーリーの中にも描かれているのは、身近な生活。奇病に罹ろうとも、思い悩むのは近しい人のことや、うまくできない自分に対して。

 

『パンダ探偵社』の続きが早く読みたいと思う。裏腹に、まだまだ先でもいいなとも思う。

頭の中では、『パンダ探偵社』の二次元の町が立体感をもって構築されて、繊細で不器用な半田さんは今日も大いに悩みながら生活している。この世界で、もう少しわたし自身うろうろとしていたいのだ。

 

 

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