広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.124

蔦屋書店・犬丸のオススメウイルスは生きている中屋敷 均 著/講談社現代新書
 

 

新型コロナウイルス。

まったくもって憎らしい。わずか数カ月で世界中に広まり、命を脅かし、生活様式まで変えさせられてしまった。

人類に感染症を引き起こすウイルスは、闘わなければならない敵だと言える。でも、ウイルスって悪いやつばかりなのだろうか。目に見えないし、なんだかお化けのようなよく分からないけど、聞くだけで怖い存在になってしまってはいないだろうか。

闘うにはまずは敵を知らないと。

 

本書の中で、ウイルスを分かりやすく擬人化して例えてある。少し要約する。

ウイルスは自分の暮らす部屋(細胞)がない。一応、雨露をしのぐレインコート(キャプシド)は着ているが、自分の空間がないので快適な環境も整えられず、便利な道具(リボソーム)もない。ひたすら耐えて漂うだけのかわいそうな存在のようにも見える。しかし、ある時にはドアをノックして有無を言わさず他人が住む部屋へ侵入していく。そこは、ウイルスにとって天国で、他人の部屋の中の道具も平気で先に使ってしまう。一部屋に一人というルールも守らず部屋一杯に増える。そうなると、元の住人はお手上げである。最後は、増えたウイルスは部屋の外へと出ていく。

これが、典型的なウイルス感染の比喩的な説明である。

 

なるほど。ウイルスは宿主がいなければ、自ら増えることはできない。ひとたび宿主を見つけ細胞内へ入り込んだウイルスが「最高!」とか叫びながら自らをコピーし、隣の細胞へ、またその隣の細胞へと細胞壁を壊しながら急激に増殖していくのを見るようだ。こんなことをされては、免疫システムも一気に作動してウイルスをやっつけようとするだろう。

やはり敵でしかない。

 

だが、一見、傍若無人にも感じるウイルスだが、宿主とウイルスとの共生の話となると、これが全く違ってくる。

あるハチは他の昆虫の幼虫(イモムシ)の体内に産卵する。いわゆる寄生だが、これをウイルスがうまく助けているとしか言えない振る舞いをする。よくも、ここまで寄生バチに都合よく共生できるものだ。長い共生の歴史の中で、紆余曲折あったろうに太鼓持ち的な共生を選んだウイルス。自らの遺伝子を増やしていくのに、背に腹はかえられぬといったところか。まあ、背も腹も持っていないが。

もっと身近なところでも共生はある。わたしたち人類を含む哺乳類の大きな特徴のひとつといえば、胎盤を持っているという事だろう。母親は体内で胎児を育てる。考えてみれば不思議だ。親子で血液型が違っていても免疫システムが作動せず、母親の体が胎児を攻撃することはない。そこにもウイルスは関わっている。生物の歴史のどこかで共生を始めたこのウイルスが無ければ胎盤はうまく進化せず、わたしたち人類を含む哺乳類はもっと違う体の構造をしていたのかもしれないのだ。

わたしたちは、自らの遺伝子だけではなく、共生しているウイルスの遺伝子も子孫につなげている。

 

新型コロナウイルスがどこからやってきたのかは定かではないにしても、コウモリやセンザンコウの身体に比べれば、細胞の数が多く大きな身体を持つ人類は、ウイルスから見れば最高の宿主を見つけたと大喜びしたことだろう。

だが、地球上のあらゆる生物に比べ、人類は歴史が浅すぎる。ホモサピエンスだけなら、わずか20万年しかないのだから。だから、コウモリにとっては何ともないウイルスが、ひとたび人類の体内で異物とされ免疫システムが作動する。

新型コロナウイルスにとっても、本来なら宿主にダメージを与えるのは不本意であろう。宿主が元気でなければ、ウイルスも増えることはできない。存続に関わるからだ。ならば、なんとかもう少し穏やかな性質に変異してもらえないだろうか。早急に。それならば、共生も難しくはない。

 

だが今のところは、闘うしかないようだ。

既にウイルスの遺伝子は特定され、治療薬やワクチンの開発に向かっている。開発されるもう少しの間、人類は分断することなく行動しなければならない。わたしたちには、想像力がある。自らを「保菌者」だと思い行動する。他者にうつしてはいけないと思って行動すれば、きっと、自然と思いやれる。

そして、コロナウイルスは構造上、石鹸に弱い。これは明らかだ。

やつらの嫌いな石鹸で、これでもかと手を洗って、痛めつけてやるのだ。

 
 
 

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