広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.125

蔦屋書店・神崎のオススメ自由からの逃走エーリッヒ・フロム著 日高六郎訳/東京創元社
 

 

新型コロナウイルス感染拡大に伴う自粛・休業で私はしばしの自由を手に入れた、と思っていた。時間に縛られない生活、人間関係や社会のしがらみ、義務や責任から解放された時間。けれど何かが違う。息苦しい。これは私が求めていた自由なのだろうか。自由とはなんだろう。

フロムによると自由への欲求は、子どもが成長し、第一次的絆(母親との結びつき)がたちきられるにつれて、個性化と自我の成長として生まれてくるものである。同時に孤独の自覚と、無力と不安の感情を生み出すという。

歴史において自由は、資本主義の発展とともに大きく変化した。「資本主義は人間を協同的組織の編成から解放し、自分自身の足で立って、自らの運命を試みることを可能にした」のだ。つまり経済的に独立し、積極的な自由を手に入れることができるようになった。この新しい自由を得ることで、安定感と帰属感を与えていた絆が断たれ、固定した地位は失われた。さらに動揺、無力、孤独、不安の感情をも生み出した。

人間はこの負の感情を伴う自由から逃避し、自由に背を向けても帰属感と安定を求めようとした。その心を巧みに利用したのがナチズムだった。ドイツ帝国という強力で揺るぎない国家への帰属と確固たる安定を約束して人々を操ったのだ。

人間は自由に伴う孤独や不安の感情から抜け出すことはできないのだろうか。自由から逃げてまで帰属や安定を求める心を止めることはできないのだろうか。

フロムは次のように述べている。

人間が社会を支配し、経済機構を人間の幸福の目的に従属させるときにのみ、また人間が積極的に社会過程に参加するときにのみ、人間は現在かれを絶望ー孤独と無力感ーにかりたてているものを克服することができる。

本当の自由を謳歌することができるのは、まだまだ先なのかもしれない。

 
 
 

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