広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.135

蔦屋書店・河賀のオススメ『ブードゥーラウンジ』鹿子 裕文 著/ナナロク社
 
 
電波の届かぬところで革命の音が鳴っている
九州の大都会、福岡天神の賑やかな大通りをちょっと入った一角に、ライヴハウス「ブードゥーラウンジ」はひっそりと実在する。
 
本はまぁまぁ読むかな、程度のわたしですが、この本はわたしが紹介したい。紹介するべきかもしれない、そう思ったのです。
 
本書は作者の鹿子さんがブードゥーラウンジで出会う面々、自主制作レーベル「ヨコチンレーベル」代表のボギー君をはじめ様々なミュージシャンを中心に描かれたノンフィクションです。とにかく熱量のすごい本書は、登場するミュージシャンの描写がとてもリアルです。音、照明、汗、タバコのにおい、そういうものがまるで体感したように伝わってきて、実際には見たことも行ったこともありませんが、見えるのです。カシミールナポレオンという二人組の激安パフォーマンスに笑い、オクムラユウスケの魂の演奏に泣きました。わたしには確かにそこにいたのです。
その想像力に拍車をかけた要因のひとつに、登場人物の挿絵があります。表紙の絵もそうなんですが、それは実はボギー君のご長男モンド君が描いたもので、上手という言葉では収まりきらない味わいがあります。読んだ後わたしはCDを買ったし、YouTubeやtwitterで登場人物も拝見しましたが、まさに想像通りで驚きました。そして生音を聞き、生身を見て、また笑って泣きました。
 
「ヨコチンレーベル」のヨコチンとは、あのヨコチンです。はみ出してるあれです。はみ出し者大集合ということなのです。確かにハチャメチャな歌詞を絶叫する様や、自由すぎるパフォーマンスは一般的とはいえず、はみ出し感がすごいのですが、こんなにふざけているのになぜこんなにも心揺さぶられるのでしょうか。はみ出し者たちのどこまでも自由で嘘のない表現力に圧倒されるのかもしれません。
たいていの人は皆、はみ出すことなく不自由に、時には自分に嘘をついて過ごさなければ保てない世の中です。そんな自分を正当化するためにはみ出した人を変わり者と位置付けることが、わたしにもなかったとはいえません。でもそれですましてしまうなんてつまらないと思いませんか。好きなことを思いっきり表現して生きていける人がステキじゃないはずがないのですから。
 
ライヴハウスでのこと以外にも鹿子さん自身やボギー家族にまつわるお話も語られています。
とても好きな一節があって、ボギー君が「子育てセミナー」の講師としてセミナーに参加するお話なんですが、面白くてあったかくてほんとボギー君大好きってなります。ネタバレですが少しご紹介すると、若い子育て世代の主婦の方(と内緒で参加した鹿子さん)の前に、西川きよしのお面を付けて横歩きでゆっくりゆっくり、たまに振り向いて立ち止まる、を繰り返しながら登場!固まるセミナー参加者を気にもせず、目隠しして「うまい棒」の味をあてるクイズをし、次は大量のキン肉マンの消しゴム(いわゆるキン消し)をぶちまけて真剣勝負。そんなカオスな「子育てセミナー」ですが、最初はとまどっていた奥様方もいつの間にかボギー君のペースで盛り上がり、終盤になってやっと子育てというか子どもとの接し方につて話しはじめ、1曲歌ってセミナー終了!もうそんなセミナーあったら絶対参加したい。
大人でも子どもでも遊びも仕事も本気で面白がる、それくらいしかお伝えできることがないとボギー君は言いますが、それができれば子育ても人生も成功といえるのではないでしょうか。
 
そんなはちゃめちゃな仲間たちが集うブードゥーラウンジですが現在は移転してしまったので、本書での出来事があった場所は今はもうありません。でも読めばきっとブードゥーラウンジ最後の日のライブ「ラウンジサウンズ56人弾き語り忘年会」に参加できますよ。
はみ出し者たちをたばねるボギー君、これからもどうかこのまま真っすぐにはみ出して、わたしたちを楽しませてください。心から応援します。

 
 
 
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