広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.133

蔦屋書店・江藤のオススメ『ブックオフ大学ぶらぶら学部』岬書店
 
 
たまらない本を読んだ。
最近読んだ本の中でも、一番刺さったのではないか。
むくむくとなにか書きたくなってしかたない。
私にだってブックオフとの思い出なら沢山あるんだ。
 
そう、あれは、大学生になってしばらくたった頃だっただろうか。
(ここから先の文章はあくまでもフィクションです。実在の人物、場所、お店、などは参考にしているぐらいで、あくまでもこれはフィクションであると言っておきます。)
 
 
することがなかった。
そう、文字通り、なにもすることが無かったのだ。
 
 
大学生になって、何かが変わると思っていた。
いったん、今までの人間関係や属していた社会からリセットされることで、新しい何かが始まる、楽しいキャンパスライフが待っているのかと思っていた。
しかしー
 
高校生活についての思い出は、実はそんなに無い。
というか、記憶から抜け落ちてしまっている。
私の昔の記憶というのはなぜか非常にばらつきが多く、小さい頃に読んだ本や昔ハマった趣味やおもちゃのことなどやたらと覚えているのに、ある時期は全く覚えていなかったりする。
恐らく、UFOに拐われた時に、記憶を何箇所か削られたのかもしれない、その拐われたという記憶も削られているのだけれど。
 
それなりに楽しんでいたとは思うのだ、友達もごくわずかだがいたように思う。しかし、そもそも記憶が無い中でも女子と話をしたなんて記憶は1ミリもない。
まあ、そんな感じの高校生だったのだろう。
 
そんな私も大学に入れば何かが変わるのではないかと期待していたところもあった。
大学に入ると合コンというものがあって、それは楽しいものらしいと噂では聞いていた。しかし、それは噂以上の存在になることは無かった。
 
では、何をしていたのであろうか。
ここでまたUFOに拐われて削られた記憶問題というのが浮上してきて、よく覚えていないという結論になってしまう。
 
しかし、本にまつわることは、なぜかやたらと覚えていたりするのだ。
ポツポツと周辺に出来始めていたブックオフを含む古本屋さんにやたら通っていたことは覚えている。なぜかUFOは本に関わる記憶だけは残してくれていた。
その頃の思い出をつらつらと書き記しておきたい。
 
小さな頃から本は好きだった。
本を読んでいれば退屈しないので、本がある生活は楽だった。
あまり覚えていない高校生のときにも、本はずっと読んでいた。
 
大学生になると、サークルやコンパ、男女交際に伴うレジャーなどで忙しくなり、本なんて読んでいる暇が無い、ということにはならなかったので、相変わらず本が友達だった。
 
たっぷり時間があるのが大学生で、スキマ時間や空き時間にたっぷり読書ができた。
ようするに、することがないから本を読んでいた。
そうなると、休みの日ぐらいは他のことをしたいのだけど、なにもすることがない。
仕方がないので、車の免許を手に入れて行動範囲の広がった私は、タウンページを開いて、古本屋さんが載っているページをコピーし『ライトマップル広島県道路地図』を片手に古本屋さんをめぐるようになった。
 
まだ車にはカーナビも付いていないし、その頃はスマホどころか携帯電話も一部のセレブな大学生は持っていたかもしれないが一般的ではなく、友達の多い大学生はみなポケベルを持っていたが、友達がいない私はポケベルの存在は知っていたが相手もいないので持ってはいなかった。
 
今ならパソコンやスマホでお店の情報や写真などすぐに検索できるのだが、なにしろ当時の情報源はタウンページのみなので、地図を調べてなんとかたどり着いても全く思っていたようなお店ではなかったり、欲しい本が無かったりするのは当たり前。非常に効率が悪いのだが、今では味わえない楽しさがあったような気がする
そんな悪条件の中で当たりを引いた時の喜びは、今の比ではなかった。
 
その頃、広島で一番店舗数が多かったと思われる古本チェーン店は「花いち古書センター」ではなかっただろうか。ブックオフほど洗練されたキレイなお店ではなかったが、マンガや雑誌の比率が高い店が多く、また置いている本や値付けにも店主の個性が大きく反映されていたので、いろんなお店をまわるのがとても楽しかった。
あとは、クジラのマークの「ブックマーケット」にも行っていた。
可部の「ベストワン」というお店もあった。
昔は「レプトン」も古本屋さんというイメージだったが、いまではゲームや古着の店ばかりになってしまった。
 
その頃の、倉庫をそのまま店舗にした古本屋さんでは、異常に本棚が高くて、積み上げられた本も多すぎて、いったいどうやったら一番上の棚の本を見ることができるんだろうと疑問だったし、いつ行っても全棚を見ることはできなかった。さらに倉庫なので冬は半端なく寒かった。なぜかシルバーアクセサリーなども数百円で売っていて、身につけるとバカにされること間違い無しの微妙なリングやウォレットチェーンを買ったという香ばしい思い出もある。
もちろん、広島に進出し始めたばかりのブックオフにも行っていた
中でも一番行っていたのは、やはり店舗数が多かった「花いち古書センター」だった。八木や八本松、西条のお店などは、好みのマンガの品揃えが良かったのでよく通っていた。あの頃は、つげ義春、水木しげる、楳図かずお、なども通常の棚で見つけることができるいい時代だった。サンコミックスもたくさん置いてあった。
 
たしかあれは、西条の花いちだっただろうか、ひととおり棚を見たあとで、最後にチェックしたのがレジの後ろにある、高額本が飾ってある棚だ。
そこで見つけてしまったのが『SF新鬼太郎』だった。レジにいたおばさんに声をかけて見せてもらうと、ビニールがかかっているため中は読めないのだが、立派なハードカバーで、なんと付いている値段は6000円。初めて見る本だったので相場もわからず、悩みに悩んだのだが、古本は出会った時に買わないと一生後悔することになるという先人たちの言葉に従い、思い切って買うことに。「これ買います!」(キリッ!)と言った時のおばさんがちょっとうろたえていたのに気づいてはいたが、その意味もわからず買って帰ったのでした。
内容的には、青年向けに書かれた後期の鬼太郎もので、非常に面白く満足のいくものでした。
 
しかし、その後、『SF新鬼太郎』の相場を知ると、あの6000円はあまりにも高く付けすぎている値段だというのに気がついた。恐らく売るつもりもなく店に飾るために高い値段を付けて置いていたものであり、まさか買うやつがいると思わなかったおばさんのうろたえが顔に出ていたのだと理解したのですが、あの当時はそんなことはよくあることでした。
 
むしろこの本がこんなに安く手に入っていいのか!ということも多く、だからこその宝探し的な面白さがありました。
まだインターネットもそこまで普及していなかった頃なので、古本の相場もそんなに全国的に統一されていなかったし、それを一般の人が知ることも難しかったので、今まで出会った本から推測してこれは買いだ!いや高すぎる!など判断して、得したり損したりしていた頃です、いや、見つけて買って嬉しかったのなら損なんてしているはずは無いのですが。
 
確か『SF新鬼太郎』は当時でも高くて2000円ぐらいが相場だったと思います。ちなみに今ネットで検索すると高くても1200円ぐらいですね。
 
ここで、おや?って思いませんか。
希少な古本であれば、だんだんと価値が高まっていくはずですよね。
なのに、当時の相場よりもさらに下がってしまっている。
これは、恐らくインターネットの普及で古本の相場がガラッと変わってしまったのではないかと思っています。
 
当時は、なかなか出てこない珍しい本には高い値段を付けて、お客さんも珍しい本だから高いのも当たり前だと思っていた。店主もふっかけるような値付けをよくやっていた。
しかし、インターネットの普及で、その珍しいと思っていた本が全国に何冊ぐらい出まわっているのかわかるようになってしまった。意外とたくさんあって、どこの古本屋も持っているというのが可視化されてしまった。実は全国規模で見ると珍しくないのだとわかってしまい値段も安くせざるを得ない。調べたらわかるので、ふっかける値段も付けられない。
 
手に入れるためにすごい苦労をして店をまわって探していたのが、家でネット検索するといくつも出てきて、その中で一番安いところで買うことができるようになったんです。
こうなると古本屋をめぐることの効率の悪さが目立ってしまって、探している本は検索して買うという新たな文化が出来ていくことになり、古本の値段も上下の幅がなくなって、お宝を安く買う楽しみも減っていくのですが、これはまた別の機会にお話したいですね。
 
大好きだった古本屋さんも、全国どこの古本も検索できるようになってきたネットの普及とブックオフが店舗を増やしていくなかで、どんどん閉店していくことになりました。
少し悲しいけれど仕方ないので、その後はブックオフにひたすら通うことになるのです。
 
今でこそ、均一棚にはいい本が全然なくて、良さそうな本は結構高い。というイメージになっているブックオフだが、初期のころは、どんな本でも半額で売っているお店という印象だった。さらに100円本の棚も大きくて、そこに眠る大量のお宝を探しに足繁く通ったものだった。
 
あの頃のブックオフのシステムというのは、本の査定をすること無く、定価の半額で販売して、しばらく売れなかったら100円になる。という潔いスタイルだったので、店主が独自の値付けをする古書店とは違うものだった。
 
そのため、本好きにとってはある種のパラダイスだった。
古書店なら定価より高くなる本が半額で買え、100円棚に落ちてくる良書を好きなだけ漁ることができた。
私も、その頃ハマっていた島田荘司の文庫はほとんど100円で手に入れたものだった。また、ハヤカワ文庫のいわゆる青背だったり、東京創元の文庫、ポケミスなども100円で大量に並んでいた。
 
ある時期には、夏にいつも開催される新潮文庫の100冊に選ばれるような本を端から全部読んでやろうと思って100円で買い漁った。その中で海外の古典などもほとんど100円で読んだ。
 
今では結構レアになってしまった、ポプラ社版ハードカバーの少年探偵団を、あらゆるブックオフにいくたびに児童書コーナーをチェックしまくって、100円本だけで全巻集めきったのもブックオフのおかげだ。
 
読みたい本は図書館よりもブックオフにたくさんあったし、100円なんてただみたいなものだと思っていた。私を形作っている読書体験の多くはブックオフが無ければありえなかった。
 
しかし、ブックオフですら、ネットの普及が加速する中で、形を変えざるを得なくなってしまう。それは、ブックオフを拠点とするせどらーたちの存在によってだ。
 
せどらー対ブックオフの攻防とそれによって何が変わったのか、はこの『ブックオフ大学ぶらぶら学部』の中に詳しく書いてあるので、ぜひ読んでもらいたい。私も知らなかった事実も多く含まれていて、驚きとともに非常に興味深く読んだ。大変貴重な記録だと思う。
 
正直、今のブックオフを古本屋さんとしてどう思うかと問われると、昔好きだったほどではないと言わざるを得ない。
当時のブックオフが革命的であったのは、本の価値というものを、「無」にしたというところにあるのではないか。価値を「無」にすることによって、今までの本屋さんであったり古本屋さんでは絶対に作れなかったカオスな棚がそこに出現した。今までの価値観や常識がまったく通用しない異空間としてのブックオフには異常な魅力があった。あの頃を思い出すと、いまでも清水国明のナレーションとテーマソングが頭の中で鳴り響く。
 
では今はブックオフに行かないのか?と問われると答えはNOだ。
しょっちゅう行っている。
ブックオフはすでに古本屋さんではなくなった。古着から家電、楽器、スポーツ用品、アウトドアグッズ、なんでも売っている。ジャンクコーナーなんてまさに宝探しだ。なにか面白いものがないかぐるぐる探して、何も見つからなくてもとりあえず雑誌や文庫を買って帰る事ができる。自分の子どもたちを連れてブックオフに行くなんて、あの頃想像も出来なかった。
 
今では書店員として文芸コンシェルジュなんて偉そうに名乗っているのだけれど。
ブックオフをはじめとするあの頃元気だった古本屋さんに育ててもらったようなものだ。
 
 
そして、私は未だにブックオフ大学を卒業できないままなのである。
 
 
 
 
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