広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.143

蔦屋書店・作田のオススメ 『夜中の薔薇』向田邦子/講談社文庫
 
 
本は小さい頃から大好きで
あるときは友として味方になってくれ
あるときは師として心の支えになり
栄養剤となってくれる大切な存在です。
縁あってありがたいことに書店員を職業にして数十年になりますが
一番最初に勤務していた書店で出会ったのが
向田邦子さんの本でした。
 
小説に登場する女性たちは心の奥底に潜む妬みや欲望が何気ない仕草や言葉にあぶり出されています。
ちょっと?ドキッとする場面も感じながらも、反面「そうそう」「わかるわかる」と共感する部分が好きなのです。
 
エッセイに登場する女性(向田邦子の人柄が大半です)はわたしと同じくおっちょこちょいでせっかちな面、美味しいもの大好きなところ、本が大好きなところ等「あっ、わたしと同じだ」と嬉しくなり親近感を感じます。
『夜中の薔薇』というエッセイは作家向田邦子の面だけでなく、一人の女性として日々の生活の中で出会った人とのエピソードを温かい眼差しで見つめたり、向田さんが大好きな美味しい料理の話や(実際わたしも作ってみました)意外に?お茶目な顔をみせてくれる文章が掲載されています。
例えばこんな描写が。
 
デパートで買い物をしていて時間の約束を思い出した。恐れ入りますがと男の店員に時刻をたずねた。その人は自分の腕時計をのぞき、教えてくれながら、急に怪訝そうな顔になった。私は腕時計をしていたのである。
『夜中の薔薇』より
 
好きな本は二冊買う時には三冊四冊と買う。
読んでいる途中、あるいは読み終わってから、ぼんやりするのが好きだ。砂地に水がしみ通るように、体のなかになにかがひろがってゆくようで「幸福」とはこれを言うのかと思うことがある。
『夜中の薔薇』より
 
読みながらその場面に出くわした向田さんの姿を勝手に想像するのも楽しいのです。
 
反面お洒落で旅、料理が好き、面倒見が良くてものや人をとても大切にしていくところは、わたしにはかけてるところばかり。
自分に似合う、自分を引き立てるセーターや口紅を選ぶように、ことばも選んでみたらどうだろう。ことばのお洒落は、ファッションのように遠目で人をひきつけはしない。無料で手に入る最高のアクセサリーである。
『夜中の薔薇』より。
 
洋服の着こなしはもちろん素敵な向田さん。
わたしは足元にも及ばないがこれだったらこれなら真似できるかな?
 
たけのこの皮むき、蕗の皮むき。このふたつは特にたのしい。たけのこは、もうこの辺でよそうか、と迷いながら、もう一枚もう一枚とむいてゆく面白さ。蕗はスーと一直線に縦にむけるいさきよさが嬉しいのである。
『夜中の薔薇』より。
 
料理の工程を楽しんで取り組む姿勢が素敵だなあ。
向田さんの本と出会ってからわたしにとって、一番好きな作家となり憧れの女性となり、今もこれからもわたしは向田さんの作品を通して思い続けることは決してなくならないでしょう。
 
 
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