広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.140

蔦屋書店・竺原のオススメ『The Gambler』ウィリアム・C・レンペル 著  上杉隼人 訳/ダイヤモンド社
 
 
アルメニア系移民の子としてカリフォルニア州フレズノで生まれた本作の主人公であり、後に米国有数の投資家/実業家となるカーク・カーコリアン(Kirk Kerkorian)は決して恵まれた生活を送っていた訳ではない。
 
その父アーロンと祖父のキャスパーは19世紀末から20世紀初頭、オスマン帝国の没落によってトルコ人民族主義者の攻撃が激化したアルメニアで生き残り、アメリカ合衆国へと移住して来た。
 
ゼロからの生活を送る彼らに金銭的な余裕はなく、カークは9歳の頃から路上で新聞販売をして家計を助けていた(元々アルメニア語しか話せなかった彼は、新聞を買いに来るお客とのやり取りの中で英語を学んだ)。
 
そんな彼は大恐慌の最中に8年生(日本で言う所の中学2年生の年に)で学校教育からドロップ・アウトをする事となる。
 
「ドロップ・アウト」というとそのまま落ちぶれて行ってしまう様な印象を与えるが、彼はそうでなかった。
 
以降ゴルフのキャディをしたり、街角でオレンジを販売したり、多くの肉体労働をしたり、その縁でボクサーとしてデビューをしたりしながら生きる為の金銭を稼ぐ様になった。
 
リングを降りたのは彼が22歳の時であったが、その後に得たのが飛行機操縦士としての職であった。
 
ここから彼の生活が大きく変化して行く。
 
地元の航空学校を6ヶ月で修了し商業航空士としての資格を得、航空輸送の飛行士として数々の仕事を遂行しながら世界を周って行く中で、彼は「飛行士」としてではなく飛行機を使った航空輸送ビジネスを立ち上げようと思い至る。
 
このビジネスを当てて巨万の富を得た彼は、その後ホテルやカジノ産業に手を伸ばし、映画/自動車会社の買収により億万長者の仲間入りを果たして行く事となる…。
 
華々しい経歴を持つカーク・カーコリアン氏だが、それこそ近年までその名を広く知られる事はなかった。
 
何故か?
 
それは彼が生涯、自分自身をセレブリティの様に扱われる事を嫌ったからだ
(※晩年に不本意な形で法廷に呼び出され、そのプライベートが白日の下に晒される事となり、晒された事実(本作に記されている、彼が成し遂げて来た数多くの大きな仕事や匿名での慈善/寄付活動)が彼を(ポジティヴな意味で)有名にしてしまったが)。
 
謙虚で、人前に出て目立つ事を嫌うが、やる事はデカい。
 
「アメリカの億万長者で最も知られざる人物」と呼ばれ、様々な意味での「ギャンブル」に人生を懸けたある一人の人間の「冒険の記録」として読んで頂きたい。
 
 
 
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