広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.142

蔦屋書店・丑番のオススメ 『本の雑誌の坪内祐三』坪内祐三/本の雑誌社
 
 
評論家の坪内祐三さんが今年の1月に亡くなられた。まだ61歳の若さだった。ショックだった。もう坪内さんの文章が読めないのかと。もう新刊も出ないのかと。

今年の6月に『本の雑誌の坪内祐三』が出版された。これが素晴らしかった。雑誌『本の雑誌』(本の雑誌社)に掲載された約30年にわたっての原稿や座談会、インタビューを集め再構成したもの。書籍化されていない原稿もたくさん入っている。本についてのさまざまな話題が展開されていて楽しい。坪内祐三ベスト盤の趣きもあり、坪内さんのファンから、未読者までおすすめできる一冊だ。
本に対して、単なる知識以上のものを求めている人はきっと坪内さんことが好きになると思う。そして、『本の雑誌』も良い雑誌だなと改めて思った。

坪内祐三とはどんな書き手だったのか。

それは晶文社から初期に刊行された3冊の評論集のタイトルをみるとイメージができるかもしれない。1997年のデビュー作『ストリートワイズ』、2000年の『古くさいぞ私は』、2002年の『後ろ向きで前に進む』。そこに1997年に文藝春秋から出版された『シブい本』を加えると、もっとイメージしやすいかもしれない。
 

『ストリートワイズ』。街の賢者。坪内さんは、本から学ぶ人でもあったがそれ以上に本屋や古本屋、酒場など街から学ぶ人であった。実際に手にした感触や、そのときの風景や匂い。本筋とは外れた、ふつうだったら、見落としてしまうようなこと。そこに本質があるということを書き続けたひとであったと思う。直線的に答えにたどり着くのではなく、一見遠回りしてこそたどりつける領域がある。『後ろ向きで前に進む』っていうのはそういうことだろう。例えばこんな一節にしびれてしまう。
 
私はかつてアメリカ文学・文化の専門家を自称していたことがあるけれど、私がアメリカのアメリカたるゆえんをほんの少しでも知ることができたのは、少年時代に浴びるようにみたプロレスのおかげである。(『ストリートワイズ』)

そして、『古くさいぞ私は』だ。
自らを古くさいと宣言する新しさ。古くさいとされる明治・大正・昭和の出版文化への圧倒的な知識量。それをポップに描く文章力。
その中に収められた『読書する日常』というエッセイ。世の中の読書は基本的には二通りに分かれるという。娯楽としての読書と日常(仕事)としての読書だ。そうでない第三の道があるという。それが読書する日常だ。娯楽でもなく仕事としてでもなく、ただ、読書そのものが日常であること。道具として本を扱うのでない本の読み方。こういった一文。
 
私は面白い本は好きだけど、面白さを求めて読書することはない。面白さというのは、そのあとの(いや、より正確に言えば、その瞬間の)結果に過ぎない。(『古くさいぞわたしは』)

文藝春秋から出版された『シブい本』。文学哲学から雑本まで、取り上げるジャンルの広さ。ジャンルをしぼって読むより、雑読であることに価値があると教えてくれる。『シブい本』は具体的なブックガイドとしても優れているが、シブい本というワードを通じてどのような本を選ぶのか、という姿勢を教えてくれた。

また、よく坪内さんが言っていたのは、ゴシップ的感受性が必要だということだ。いわゆるゴシップをどう捉えるかということ。正史からこぼれ落ちるようなゴシップを拾い上げることは、見落としがちなことに本質が隠れているという坪内さんの一貫した姿勢の現れだったと思う。
 
 
それで紹介したいのが、神蔵美子さんの写真集。『たまもの』(筑摩書房)。これは坪内さんと結婚していた神蔵さんが、白夜書房編集者の末井昭さんと不倫し結婚するまでを撮った赤裸々すぎる私写真集+日記だ。生々しい写真と文章が痛切な写真文集だ。坪内さんと末井さんを知っていると、より突き刺さる写真集だ。

坪内さんは亡くなってしまったけれど、本は残っている。最初はわからなかった固有名詞に反応できることも増えた。それでも本を開くとまだまだ知らないことがいっぱい書いてある。読んでいない本を紹介している。少しずつそれらに触れていきたい。

 
 
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