広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.145

蔦屋書店・江藤のオススメ 『日没』桐野夏生/岩波書店
 
 
これは、もう
とんでもないものを読んでしまった。
 
今、わたしは、ただ、ひたすらに、怖い。
恐怖に支配されている。
 
恐怖に心が囚われてしまっている。
 
もう、なにも、はんだん、することが、できそうにない。
なんというか、むりなのだ。
 
もう、わからない

桐野夏生は凄い作家だ。
全てを読んでいるわけではないのだが。
初期の頃から、最近の作品まで色々と読んでいる。
 
凄いと思うのは、その作品世界の強固さだ。
桐野夏生の作品は、その世界観があまりにも見事に確立されていて、しかも強い。
あっという間に、その世界に飲まれてしまう。
 
さらに凄いのは、作品のスケール感だ。
単純に舞台の広さではない、閉じた世界の物語でも、広い場所を移動する物語でも
いずれにしても広大なスケール感を感じずにはいられない。
物語が大きいのだ。
 
そんな桐野夏生の最新作である。
岩波書店から発売される文芸作品というだけで、やはり興味がわく。
どんな内容なのだろうと、作品の紹介を読んでみるとこのように書いてある。
 
ポリコレ、ネット中傷、出版不況、国家の圧力。
海岸に聳える作家収容所を舞台に
「表現の不自由」の近未来を描く、戦慄の最新作!
 
どう考えても面白そうだ。
きっと今の社会問題を取り込んで、その不自由の中で強く生きる主人公がいて
もちろんサスペンスもあるだろうし、はらはらするアクションもあるのかもしれない。
もやもやする現代社会に風穴を開けるような爽快さがあったりもするのだろうか。
 
ぜんぜん違った。
恐怖しかなかった。
 
こう言うと、じゃあ面白くなかったのかと問われるかもしれないので先に答えておきたい。
 
ものすごく面白い。
始まりから面白すぎて、この物語から逃げ出すチャンスを失ってしまった。
手垢の付いた表現は嫌だが、途中で読むのをやめることなんて出来なかった。
 
それはもう、作家の力量が違う。
こんな引き込まれて、中断出来なくて、先が気になって仕方なくて
ぐんぐん、ぐんぐんと、ただ読みふけってしまうような小説はあまりない。
私はただ、物語に飲まれて没頭していくだけだ。
 
そして、もう戻れない。

今回は、この小説についてのあらすじや内容の紹介はあえてしない。
少し上の方で引用させてもらった、本の紹介文で充分だと思うから。
 
私は、果たしてこの小説を皆さんにおすすめすべきなのかどうか
それすら正直、迷っている。
 
もし、今、気持ちが弱っているとか、重たい話、つらい話、こわい話
などが、ちょっと無理ですという方は、やめたほうがいいかもしれません。
 
でも、私はこの小説がものすごい大傑作だと思っている。
 
あいつがこんなに言うのなら、ということで
読んでみようかなと思ったあなたにはこんなアドバイスを。
 
先程も言いましたが、あえて内容などは紹介しません。
何も知らないまま、読み始めて
この小説でなにが起こって、どうなって、そしてどう終わるのか。
 
何も知らないままで、私と同じように体験して欲しい。

その結果、私は、叫びだしたくなるような恐怖を感じている。
 
わたしは、わたしが、しんじられない。
もう、なにが、いいもので、わるいものなのかも
 
よく
 
わからない
 
 
 
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