広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.148

蔦屋書店・竺原のオススメ 『諏訪式。』小倉美恵子/亜紀書房
 
 
タイトル通り、本作の舞台となるのは長野県の南信地方に位置する「諏訪」という土地である。
諏訪と言えば諏訪湖をはじめ、八ヶ岳や霧ケ峰といった広大な自然のイメージがある一方、近代になるとセイコーエプソンに代表される様に「東洋のスイス」と言われる程、精密機械の会社が栄えた。
他にもヨドバシカメラ/すかいらーく/湖池屋といった日本を代表する企業の創業は諏訪ゆかりの人物に拠るものだし、建築家の伊藤豊雄氏が幼少期にこの地で過ごしていたり、
かの岩波書店の創業者である岩波茂雄氏もこの地で生まれていたりと、実に多くの人や企業がここから世に出ているのである。
本作は、著者である作家/映画プロデューサーの小倉美恵子氏が映画『ものがたりをめぐる物語』の撮影で初めて足を踏み入れた事に端を発する。
その際、現地で沢山の人々に助けられた経験から、その恩返しとして何か出来ないかと思い至り、自身が代表を務める「ささらプロダクション」が運営する「Club Sasala」の会報誌である『そもそも』に連載を始めたのが、この『諏訪式。』であった。
全編を通じて常に感じていたのは、著者のその丁寧な仕事ぶりである。
それこそ先に述べた様な「諏訪出身の著名人」だとか「諏訪の名所」といった事は、オンライン上であれば10秒とかからず検索出来てしまう情報だ。
しかし本作が調べ上げ言及しているのは、そうした表面的な情報だけではなく、その裏に潜む物事の歴史であり、その歴史をつくり上げた人々の人生であり、その人々が形成した風土である様に感じた。
「あとがき」に、この本が誕生するまで実に9年もの長い時間が込められていると書いてあった。
この事は、それだけの年月をかけて「恩返し」を(一冊の本という形にして)果たした著者の深い愛を現わしているし、また著者をそこまでさせた諏訪という土地やそこに暮らす人々の計り知れない魅力を窺い知らせてくれる。
「今」の土台には必ず「過去」や「先人」がある。
そんな当たり前だけれど忘れがちな大切な事実を改めて教えてくれた『諏訪式。』を読んだ後、思わず自分が暮らしている「今」の歴史を紐解いてみたくなった。

 
 
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