広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.146

蔦屋書店・ 神崎のオススメ 『ベージュ』谷川俊太郎/新潮社
 

ことばとひとの関係は不思議だ。
ひとはことばに何を求めているのだろう。
10代、20代、30代…年齢を重ねるごとに、ことばとの向き合いかたが変わってくる。強く鼓舞することばから、目まぐるしい日々の癒しとなることば、やがて、しずかに寄り添うことばへと。
 
88歳の詩人のことばは、しずかだ。
それは動に対する静ではなく、張りつめるほどに澄んだ無限の空間を満たしているような静寂さ、とでも言おうか。
 
詩人が詩を書き始めたのは、70年ほど前。最初の詩集『二十億光年の孤独』には、18歳の少年の日常、果てしない未来へ向かう力強さや希望、不安が凝縮されている。
 
『二十億光年の孤独』の中の「わたくしは」という詩の最後の一節
 
 
えへん わたくしはあるいている
ノートをかかえ 二十世紀の原始時代を
とことこ てくてく あるいている
はにかみながら あるいている
 
 
まっすぐ前を見て、てくてく歩き続けて70年。詩集『ベージュ』には風を切る勇ましさはない。感じるのは風とともにあるような、自然と同化しているような穏やかさだ。それは70年という歴史を刻んできた詩人としてのあり方、詩への向き合い方なのかもしれない。
 
詩人の詩への思いをうたった詩「詩の捧げ物」の最初の二節と最後の一節を掲げる。
 
 
文字でも声でもない詩を
伝書鳩のように虚空に放ってみたい
詩はどこへ飛んで行くだろうか
 
青空が雲を生むように
自然に十分自然に
詩を生みたいと夢想している
 
(略)
 
虚空に詩を捧げる
形ないものにひそむ
原初よりの力を信じて
 
 
詩人谷川俊太郎。
88歳の彼が紡ぐ言葉は、詩となり音楽となって、人々の琴線に触れ、心に寄り添いながら、いつまでも響き続ける。

 
 
 
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