梅田 蔦屋書店のコンシェルジュたち 田村[子育て(児童書・育児書)]

私と本、私と梅田 蔦屋書店

いま思えば、田舎の女子校に通うわたしがほしい刺激は、すべて本の中にあったように思います。(当時はYouTubeがはじまったばかりで、もちろんサブスクリプションなどなく、音楽や映画を楽しむことはたまのご褒美でした。最寄りのTSUTAYAは自転車で1時間かかったし…)。当時のわたしにとって読書は自分のなかを深く潜り、まわりを固めていくための行為でした。自分のペースで、自分のタイミングで進めることができる、そこに閉じ籠れば安心できる、シェルターのようでした。
 
本に再び惹き付けられたのは、スタンダードブックストア あべのに出会った時です。
まわりの同級生たちが、金や色とりどりの髪を黒く染め、はちゃめちゃな服をスーツに着替えはじめた頃。その頃のわたしは読書から遠ざかっていました。

あの頃欲しがっていた刺激的な物語は、すぐそこに実在したように思えたし、それと似たような体験をすることはとても楽しく、時にひどく苦しいことでした。また、物語の中のように、登場人物のこころの機微がわかり、俯瞰してすべてを見渡す事などどうせできないのだから、と諦めていたのかもしれません。
 
スタンダードブックストア あべのは、系列の心斎橋、茶屋町に次ぐ3店舗目のお店でした。白木の棚とむき出しのコンクリートの床、その中に漂う、紙とコーヒーの匂い。ジャンルごとにコーナーを仕切る仕切り板のない、まるで連想ゲームのような、所々にやりとする並びの本。強くて明るい照明のなかで、背表紙がやけに光っていて眩しく感じた事を思い出します。カフェスタッフとして働くなかで、カウンターから眺めるすこし遠くの本棚が好きでした。

同じ一冊の本でも、手に取る人によって意味が変わる。その先にある次の一冊も異なる。
これを読み終えたら次はあれを読みたい、と連鎖していく事や、自分ひとりきりの価値観では手に取らなかった本を読む。そうして好きになった本を誰かと共有する。その衝撃的な楽しさはそれまで体験したことが無いもので、いつしか、自分も手渡す側になりたいと思うようになりました。

放ったらかしになっていたあのシェルターを改装して、外にくり出し、人を招き入れたい。うたた寝ができるようなふかふかのクッションと、おいしいコーヒーとお菓子をこしらえるみたいに。その後、スタンダードブックストアで書籍担当になることは叶いませんでしたが、今こうして、この文章を書いている事が、その時わたしの人生を突き動かした衝動のつづきです。
 
忙しさや、ほかの楽しさに夢中で本を読む事がままならない時期もありました。なので、いつも肌身離さず本を欲している!という程の本好きではないのかもしれません。でも、知らず知らずのうちに積み重なったやり場のない感情に対して、助けや刺激を求めて手を伸ばす。
私にとって本とは、読書とは、そういう存在です。
 
書店で働き、ひょんな事から児童書を担当する事になり、それまで「ぐりとぐら」すら読んだ事がなかったわたしに何ができるんだろうと葛藤する日もあります。
けれど、児童書に触れる事は、幼少期の自分に読んで聞かせるようで楽しいし、育児書に触れることは、いままさに育児に奮闘する友人や、両親・姉兄に思いを馳せる事につながる愛おしい時間だと感じます。

あの、早く通り過ぎないかと、卒業までの日数を指おり数えた日々が今この場所のために必要だったなんて。そんな事を思い出す、書店員も5年目にさしかかる春です。
 
 
  
 
梅田 蔦屋書店のこれから

梅田 蔦屋書店との出会いは、5年前。一面に打たれた新聞広告でした。大学の研究室で作品を包むための古新聞のなかにあったのです。しかしその当時は、特に気にとめていませんでした。(といいつつ、今でも容易に思い出せるのは、どこかで憧れ、運命的なものを感じていたのかもしれません)
 
梅田 蔦屋書店がオープンした当初、児童書コーナーはわずか4個の棚からはじまったそうです。
その後、拡大をつづけ、今では25個の棚の児童書コーナーと、育児書をあわせて「子育て」の売場ができ、現在に至ります。
 
学生時代に他愛もない日々を過ごした友人は、いま、まさに子育ての真っ最中です。自分の事よりも優先して小さな命を守り、向き合う友人を想うたび、尊敬と歓びで胸がぎゅっとなります。わたしには子育ての経験がありません。そんな自分が彼や彼女たち、梅田 蔦屋書店に来てくださるお客さまのためにできる・したい事はなんだろうと度々考えます。

いつも真っ先に思い浮かぶのは、日々奮闘する人たちに、すこしの余裕ができるためのお手伝いをしたいということです。心や時間の余裕は、より楽しい子育ての環境をつくる事につながると思っています。そのために、代わって育児書や児童書を読むこと。そして頼ってもらえたなら、得たものをぎゅっと詰めこんで、さっと差し出したい。大変さも知らずに理想ばかり語って、と思われるかもしれません。

けれど、子育てに心や時間を費やす人が、ふとした瞬間に、現状を少し変えたい、変わりたいと感じたときに、理想や夢を思い描くことは大切なことだと感じます。なので、これからも理想を語らせていただきたいのです。モノが飽和しているこの梅田で、ビルの9階という、特に小さな人をつれてお越し頂くには、アクセスしやすいやら、しづらいやらよく分からないこの場所ですが、りんごを買うときにどれにしようかなと選ぶくらいの気軽さで楽しんでいただけると幸いです。
 
たとえ大げさでも、相手が小さい人であるからこそ、人生に影響を及ぼす可能性が少しでもあるのなら、テキトーなことはしない。これは、偶然とはいえ、ここに立った人間の意地です。

手前味噌ではありますが、梅田 蔦屋書店には信頼のおけるコンシェルジュがたくさんいます。
インターネットを介して、本が自宅に届く便利さももちろんいいけれど、時に本との突発的な出会いをしてみませんか。

自分ひとりきりの価値観では手にしなかったような本に出会ってしまい、人生が眩く思える瞬間を体験できるかもしれません。そのお手伝いをし、素敵な事件の共犯になってくれるコンシェルジュがお待ちしております。
 
最後に、お取引先様各位、裏方で支えてくれるスタッフ、そして何よりもお客さまに御礼申し上げます。
一コンシェルジュとして、一ファンとして。やわらかく、常に変化していくであろう、これからの梅田 蔦屋書店が楽しみです。
 
  
 
 
梅田 蔦屋書店を代表する一冊

 
 
 
書籍名:『生きる』
詩:谷川俊太郎、絵:岡本よしろう 出版社:福音館書店
 
いつだって声に出して読みたい詩が絵本になりました。ページをめくるたびに、匂いわき立つような夏の情景が広がる。
文と絵が共鳴して存在を引き立てあう、まさに絵本のだいご味が味わえる一冊。読むたびに、心をかすめる一節が変化するのが面白い。
それはまさに、いま 生きているということ なのかもしれません。
 
 
 
 
私を代表する一冊

 
 
書籍名:『金子みすゞ童謡集』
著者:金子みすゞ 出版社:角川春樹事務所
 
小学生のころ、祖父の本棚にあったものをねだり、譲り受けたものです。収録されている「大漁」の詩をひと目で気に入ったのです。体中を衝撃が走ったことをいまでも覚えています。入れ替わりの激しい我が家の本棚の古参の住人。
 
 
コンシェルジュプロフィール

4月6日、読む日生まれ。高知県出身。生後半年で実家2階の出窓から車道へ落っこちるもなぜか今なお健在。大阪芸術大学デザイン学科卒業。在学時、スタンダードブックストア あべのにて勤務。そこで北村さん(現 同店文学コンシェルジュ)に出会い書店員を夢見る。その後、他書店にて児童書・実用書を担当し、アルバイトとして梅田 蔦屋書店に入社。現在は児童書・育児書の子育てジャンルを担当。モットーは「本にミーハーであれ」。
 
 
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