広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.357『マチルダは小さな大天才』ロアルド・ダール/評論社
蔦屋書店・佐藤のオススメ『マチルダは小さな大天才』ロアルド・ダール/評論社
物語を読むことの楽しさが詰まったような、このシリーズ《ロアルド・ダールコレクション》は、ダールの名コンビとされるクェンティン・ブレイクの挿絵も最高で、もはやそれが無いことを想像することすらできないほど。お話と絵が生み出す相乗効果が炸裂しています。
あなたは普段どのような目的で本を読むことが多いですか?
たとえば、今自分が抱えている問題を解決するためのヒントを得ようとするなど、向上心から本を読む方は多いと思いますが、私自身はあまりそうした読書はしたことがありません。それよりも、その作品が描く世界を楽しむこと。どちらかというと私は、現実生活からの避難場所としての本のありがたさを実感する者の一人です。
今回ご紹介する、ロアルド・ダールの児童小説『マチルダは小さな大天才』は、そのように、日常から離れた世界を楽しみたい時にまさにぴったりの作品だと思います。子どもの目線から語られるとびきり面白いこの物語は、子どもにはもちろん、日々の生活にちょっとお疲れ気味の大人の方にも、現実のしんどさをしばし忘れさせ、いつの間にか元気も与えてくれる健康的な特効薬としてとてもおすすめです。
たとえば、今自分が抱えている問題を解決するためのヒントを得ようとするなど、向上心から本を読む方は多いと思いますが、私自身はあまりそうした読書はしたことがありません。それよりも、その作品が描く世界を楽しむこと。どちらかというと私は、現実生活からの避難場所としての本のありがたさを実感する者の一人です。
今回ご紹介する、ロアルド・ダールの児童小説『マチルダは小さな大天才』は、そのように、日常から離れた世界を楽しみたい時にまさにぴったりの作品だと思います。子どもの目線から語られるとびきり面白いこの物語は、子どもにはもちろん、日々の生活にちょっとお疲れ気味の大人の方にも、現実のしんどさをしばし忘れさせ、いつの間にか元気も与えてくれる健康的な特効薬としてとてもおすすめです。
我が子に対して何の興味も示さない両親のもとに生まれ、放ったらかしにされてきた主人公のマチルダは、実は大天才。一歳半でなめらかにしゃべり、三歳になる前には新聞や雑誌を見て文字を覚えてしまいました。
四歳で近くの図書館に一人で通い、ますます賢くなったマチルダは、事あるごとに自己中心的な理由で彼女を罵倒してばかりの残念すぎる両親に対して、行動を起こすことを決意します。一言でご紹介すればこの小説は、理不尽な大人たちに対する、天才マチルダのユーモア溢れる痛快な仕返し劇のお話です。
四歳で近くの図書館に一人で通い、ますます賢くなったマチルダは、事あるごとに自己中心的な理由で彼女を罵倒してばかりの残念すぎる両親に対して、行動を起こすことを決意します。一言でご紹介すればこの小説は、理不尽な大人たちに対する、天才マチルダのユーモア溢れる痛快な仕返し劇のお話です。
さて物語の中では、主人公マチルダの前に、両親とは別に新たな強敵も現れます。それは、非常に高圧的な態度で子どもたちを脅かす学校長。彼女とマチルダとの対決が、ストーリー全体の大きな柱になっています。
生徒を頭上でブンブン振り回して窓から放り投げるなど、凶暴としか形容しようのない校長の、あり得ない教育指導の数々は、映像化したらかなりシュールなものになりそうですが、そうした突拍子のなさが言葉で表現されるからこそ伝わってくる味わいも、きっと楽しんでいただけると思います。クレイジーな出来事の逐一が、妙に血の通った客観的な視点をまじえてありありと確かな文章で語られる面白さには、思わず笑わずにいれません。
生徒を頭上でブンブン振り回して窓から放り投げるなど、凶暴としか形容しようのない校長の、あり得ない教育指導の数々は、映像化したらかなりシュールなものになりそうですが、そうした突拍子のなさが言葉で表現されるからこそ伝わってくる味わいも、きっと楽しんでいただけると思います。クレイジーな出来事の逐一が、妙に血の通った客観的な視点をまじえてありありと確かな文章で語られる面白さには、思わず笑わずにいれません。
ところで、マチルダは四歳で近所の図書館員のミセス・フェルプスに教えてもらいながら、次々と大人が読むような有名な文学作品を読破します。マチルダが読んだ驚くべき本のリストの一部は以下のようなもの。
チャールズ・ディケンズ著『ニコラス・ニクルビー』
シャーロット・ブロンテ著『ジェーン・エア』
ジェーン・オースティン著『自負と偏見』
H・G・ウェルズ著『透明人間』
ジョン・スタインベック著『怒りの葡萄』
ジョージ・オーウェル著『動物農場』……
シャーロット・ブロンテ著『ジェーン・エア』
ジェーン・オースティン著『自負と偏見』
H・G・ウェルズ著『透明人間』
ジョン・スタインベック著『怒りの葡萄』
ジョージ・オーウェル著『動物農場』……
本書を読んでいて嬉しくなることのひとつに、物語全般を通じて、本や文学作品に対するリスペクトが随所に散りばめられているということがあります。頭が良いだけでなく感受性もとても豊かなマチルダが、担任の先生から教えてもらった美しい詩に心を奪われる様子を描いた場面などを読んでいると、本が私たちに与えてくれる恵みの素晴らしさが、自然にすっと心にしみ込んでくるような気がします。そして、この小説が世界中でたくさんの子どもの愛読書であり続けているということがよけいに嬉しくなってくるのです。
マチルダの天才ぶりや、臨場感あふれるドタバタ劇のほかにも本書の読みどころはいくつもあります。たとえばマチルダの学級担任であるミス・ハニーが登場する場面はどれも、まるで今そこにひとりの優しくて落ち着いた女性がいて目の前で動いているような、温かみのあるリアルな存在感が伝わってきて素晴らしいです。
私がこの本の中でいちばん好きなのは、物語の後半、マチルダがミス・ハニーの自宅を初めて訪れたときの様子が描かれた部分です。
マチルダが学校帰りに案内されたのは、村はずれの豊かな自然に囲まれた一角に、木々の中に埋もれるようにして建っている古くて小さな家。水道さえ通っていない不便なコテージでの、ミス・ハニーの貧しいひとり暮らし。連れ立って家に向かう道中でのやりとりや、家の中に招き入れられ、時が止まったようにひっそりした部屋の中で、いっしょにお茶を飲みながら話す二人の様子が描かれた場面は、人との距離や関係性が近づいていく時の特別なひとときがとても美しく描かれた、ひときわ印象的なシーンです。
マチルダが学校帰りに案内されたのは、村はずれの豊かな自然に囲まれた一角に、木々の中に埋もれるようにして建っている古くて小さな家。水道さえ通っていない不便なコテージでの、ミス・ハニーの貧しいひとり暮らし。連れ立って家に向かう道中でのやりとりや、家の中に招き入れられ、時が止まったようにひっそりした部屋の中で、いっしょにお茶を飲みながら話す二人の様子が描かれた場面は、人との距離や関係性が近づいていく時の特別なひとときがとても美しく描かれた、ひときわ印象的なシーンです。
物語を読むことの楽しさが詰まったような、このシリーズ《ロアルド・ダールコレクション》は、ダールの名コンビとされるクェンティン・ブレイクの挿絵も最高で、もはやそれが無いことを想像することすらできないほど。お話と絵が生み出す相乗効果が炸裂しています。
ブレイクの挿絵はカラーの単色刷りですが、よく見ると、絵だけでなく、ページ数と各章の表題が記された活字部分も、黒でなく挿絵と同色に変えられています。そのほか無地の見開きと、しおり紐の色味を合わせるなど、シリーズ通じてシンプルな色使いが効いた装丁が素敵。特にマチルダの本は、それら全てが可愛らしいピンクで統一されていて、そうしたところにも、心がときめきます。