広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.61
【蔦屋書店・江藤のオススメ 『おやすみの歌が消えて』リアノン・ネイヴィン/ 集英社】
本を閉じた後の世界が気になる。
例えば、主人公が死んだ後、悪役が捕まった後、事件が終わった後。
そこで物語は終わってしまうのだが、始まった物語に終わりなどあるのだろうか。
そんなはずはないと思う。主人公がいない場所でも世界は動いているし、犯人が捕まった後にも、その犯人のドラマは続く。大きな事件が終わった後にも、事件に関わった人達は生活をしていくはずだ。
この小説では、小学校に銃撃犯が入ってきて銃を乱射するという事件が起きる。
そこで兄を殺されてしまった弟の物語だ。事件の後の家族の物語が語られる。
物語は6歳の少年の語りで進んでいくのだが。言葉の言い回しや、漢字の使い方などがとてもリアルに表現されていて、読者は自然にその少年の世界に入っていく事ができる。
事件の後、少年は、家族は、いったいどんな生活を送るのか、なにが起こるのか、読者は少年の目を通して知ることになる。
私たち大人は、きっとだれもが、大人の方が経験も知恵もあるので、なんでも子供よりうまくやれると思っているのではないでしょうか。
実際、大人達は、子供が死んだという事実をなんとかうまく処理しようとします(しかし、全くうまくできないのですが)。
例えばその死をひどく大きく嘆きます。一家の問題児だったその子がいかに家族の中で大事な存在だったかを訴えます。その悲しみをぶつける相手として、銃撃犯の両親を敵とみなし攻撃を始めます。
一方、弟はというと。問題児だったお兄ちゃんのせいで、いつも母親と父親は喧嘩をしていたが、彼が居なくなったことで、喧嘩をする必要が無くなるのではないか。お兄ちゃんがいなくなったことで、自分をもっとかまってくれるのではないかと、実は少しうれしい気持ちになったりもします。感じたままに素直です。
しかし、当然その少年の思惑ははずれます。両親はふさぎ込み、仲もこれまで以上に悪くなり、家族は壊れていきます。
もちろんお兄ちゃんが居なくなったことを、少年は少しずつ体に染み込ませるように感じていき、その悲しみを受け入れ自分のものにしていきます。その悲しみを大人のように、嘆き悲しむ、気持ちを切り替える、敵にぶつける、などの手段で回避しようとはしません。
気持ちの赴くままに、お兄ちゃんのクローゼットに潜り込んで、仮想のお兄ちゃんと会話をします。そうして、自分が感じた感情を色紙にしてクローゼットの中に貼りつけるのです。そうやって、自分の感情を整理していくのです。
一方、彼の母親は銃撃犯の親を敵とみなし、攻撃をしていきます。優しかった母親の姿はそこにはありません。両親の気持ちも離れていくばかりです。
大人と子供、どちらが家族の死んだ後の世界を誠実に生きているのでしょうか。
大人は決して考え違いをしてはいけないのです、経験と知恵は時に足をひっぱることがあるのです、子供よりうまくやれるなんてのは思い上がりです。そして子供にはできない、わからない、なんてことはないのです。
つらい物語なので、読むのが負担になると思って避けてしまう人がいるかもしれないので、最後に言っておきます。
少年は家族を救います。
子供は大人よりうまくやれるのです。
この物語を最後まで読み通すことで、私たち大人はさまざまなことに気づき学べるはずです。
私はたくさんの大人にこの物語を読んで欲しいと思っています。
子供達のためにも。
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