広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.58
【蔦屋書店・犬丸のオススメ 『四次元が見えるようになる本』根上生也・日本評論社】
「四次元が見えるようになった!」
こう言えば、周りは失笑。
また、始まったとばかり「はいはい。」と、まるで子供をあやすかのようだ。
でも、本当に見えるようになるんだけど。この本を読めば…。
ここで取り上げている「四次元」とは、三次元空間に時間軸を足した四次元時空のことではない。三次元空間を部分として含む、空間としての自由度がひとつ増えた世界、それが、四次元空間だ。
かの有名な猫型ロボットの、ぽってりとしたおなかについているポケットといえば分かりやすいだろうか。あのポケットの中の膨大な道具が、どうやって入っているのか、見えてしまうのだ。しかも、ポケットから大きな道具が出てくる。ちょっと、湾曲して。こんなちょっとのことも、四次元が見えようになったら、「そうね、四次元から出しているのだもの」と、ひとりニヤニヤできる。
見えるようになるには、少しのこつがある。お堅いこととか、明日のこととか考えずに、脳内に座標を浮かべるのだ。平面に引かれた横軸xと縦軸y。これで二次元が脳内で出来上がる。それに高さを加えたz軸、これで、わたしたちが住む三次元が構築された。
そこからはみ出す、もう一本の軸w。四次元。
あっ、「わからない」とあきらめないで。あなたは読み進めながら、脳内でひたすら二次元(平面)と三次元(立体)を行き来しながら、単純に図形を重ねたりひっくり返したりするだけでいいのだ。そして、その図形を脳内から引っ張り出して、目の前の現実世界に置いたり、現実世界すらも縮小させて重ねたりする。目の前の現実世界に存在しないであろうものを見るのだ。
これは、「脳を遊ばせる」本なのだ。
『度胸星』(著・山田芳裕)というSFコミックスがある。
宇宙飛行士を目指す若者達の話と並行して、初の有人火星探査機の着陸が成功した話が展開していく。火星に降り立った宇宙飛行士は、そこで謎の生命体(?)と出会う。この生命体の動きが、地球人から見ると理解できない。理解できないものは恐怖でしかない。次元が違う。
そう、これこそ「次元が違う」のだ。この生命体は四次元の住人で、わたしたち三次元の住人にはない、もう一本の軸を持った動きが出来るのだ。
以前読んだときは、不気味な動きをする生命体でしかなかったが、『四次元が見えるようになる本』を読み終わった後で、再度、読み返すとこの動きが解る。すっきり感と共に、さらに面白くなる。一冊の本が、新たな本を連れてくるばかりではなく、過去に読んだ本にまで影響を与えたのだ。
そして、本を読むことでしか知ることが出来ない世界がある。
「百聞は一見にしかず」ということわざがあるが、この「一見」が視覚機能の事を指すのなら、視覚で捉えたものだけが全てではない。四次元ひとつをとってみても、視覚で探し回ったらきっと見つかりはしないだろう。
視覚で見ることよりも、一冊の本が理解を深くし、新たな世界が見えるようになることもある。「百見は一読にしかず」だ。
あなたは、この本を読み終わり四次元が見えるようになる。四次元の世界に立ち、三次元の世界を見下ろしたときに発する言葉は、もう決まっている。
「絶景かな。絶景かなーー。」なのだ。
【Vol.57 蔦屋書店・丑番のオススメ 『少年の名はジルベール』】