広島 蔦屋書店が選ぶ本 VOL.44

【蔦屋書店・江藤のオススメ 東京輪舞月村了衛・小学館

 

こんな話をご存知だろうか。

人類が朝食を取るようになったのは、つい最近のことであり。実はトースターを発明して、さらには電力会社を経営していたエジソンが、その商品と電気をより多く販売するために、朝食にパンを食べることを推進したことが始まりだという話。

なるほど、人の根源的な習慣というものにも利権が絡んでいたりするのか、面白い話だなと思わず納得したくなるのだが。

実はこのエジソンの話も、全くのデマであるという説もある。

高度に情報化された現代でも、一体なにが本当でなにが嘘なのかわかりにくくなっている。

そこに国家やそれに準ずる組織による情報の操作があったとしたら、なおさらである。

 

あらゆる物には表と裏がある。あらゆる事にも表と裏がある。

ある政治的にも国際的にも重要な事件が起こったとする。その時、私たち一般の人間に開示される事件の概要というのは、とりあえず国民を納得させるための表面的な事実だけである。絶対に知られてはいけない核心部分について発表はされていないのだ。

 

もうすぐ「平成」という時代が終わる。となると「平成」とはどんな時代だったのかと考えてみたくなる。私も考えてみたのだが、どうもぴんとこない。「平成」とはなんだったのかよくわからないのだ。とてもたくさんの出来事があったはずだ。大きな事件もいくつもあった。

 

今回紹介しようとしている『東京輪舞』は昭和から平成にかけての、国際的な重大事件を公安警察の視点から語るフィクションだ。フィクションといっても、事件自体は全て事実に基づいているし、事件や関係者も実名で登場する。限りなくノンフィクションに近い小説である。

 

主人公の砂田は小説の冒頭では、平の巡査だ。田中角栄の邸宅に進入しようとした不審者を取り押さえて怪我をしてしまう。その砂田の入院先に田中角栄が見舞いに来るところから物語は始まる。

その後、砂田は警視庁公安部外事一課五係に配属され、田中角栄が逮捕される「ロッキード事件」に関わることになる。

それ以降の砂田は、さまざまな部署を転々としながら「東芝COCOM違反事件」「ソ連崩壊」「地下鉄サリン事件」「警察庁長官狙撃事件」「金正男不法入国事件」などの国際的に重大な事件に関わっていくことになる。

 

ここで公安警察について、だが、ここはまさに表と裏が絡み合う非常に複雑なところなので、ほんの少しだけになるが解説をすると。

主に砂田が活躍するのは、警視庁公安部の外事第一課という、対ロシア(旧ソ連)、東欧のスパイ、戦略物資の不正輸出に関する捜査や情報収集をおこなう部署だ。

 

公安警察内部からみるこれらの重大事件は、私たちが一般的に知っている事実よりも遙かに深い闇を抱えている。そしてその闇の奥で暗躍する裏の世界の人間達がいる。

知らなかった方が幸せだったのかもと思う事実や、知っていた事実と、その事件の真相とのあまりにも大きな違いに驚愕してしまう。この世の中の出来事には、どれだけ裏があって闇があるのかということに、絶望的な気持ちになる。

 

しかし、隠されている事実を私たちも知らなければいけないし、知ろうとしなければいけない。まさに、「ぼーっと生きてんじゃねーよ!」と活を入れられる気分だ。

だが、それだけではないのだ。対犯罪や、対外国だけではない。公安内部の思惑や腐敗も関わってくる。真実はどこにあるのか、正義とはいったいなんなのか、わからなくなる。

 

角栄を逮捕させた闇の力は。ソ連崩壊の裏で暗躍していたのは。長官を狙撃したのはオウムなのか。金正男はディズニーランドに行きたいだけの男だったのか。

 

月村了衛の事実に基づく想像力でどの事件も裏の姿を露わにされる。そしてその裏で暗躍する男と女がドラマチックに描かれる。知的好奇心が刺激され、ドラマに胸が高ぶり、驚愕の事実に唖然とさせられ、その闇の深さに絶望を感じるかもしれない。

 

もう一度繰り返しておく。

私たちは知らなければならない。

知ろうとしなければいけない。

 

この世界に存在する裏と闇を。

 

 

 

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